私のような文系人間にとっては,ちんぷんかんぷんながら,マッドでポップな感覚がかっこいいなあと思わせる作品である。
BC飛行とは何か。
訓練を受けた数理飛行士が,純粋に数学的なメカニズムと特殊な心理訓練によって,抽象世界にはいりこめるようになったのだ。
数理飛行士は,空間の生の数学的構造を,物質の介在なしに見ることができる…らしい。
この,あまりに異質な世界から身を守るよう,BC場というものが用意され,その中だけは,ノーマルな世界を保持しておくために,非常識な状態でも常識にしがみつくような石頭の連中の力をかりているのだ。
それを担う船内の「心的エコロジー部門」には,ニューヨーク市大ブロンクス校の「常識派」の若手を配置,百三十九丁目駅を目指す古ぼけた地下鉄車内を見事に現出しているのである。
物語は,トラブルにより,「心的エコロジー部門」と接続する回路が一時途絶えてしまったために,乗組員の一人が,生の抽象世界に入り込み,そこに生きる種族と,われわれの物質世界の成り立ちとの関係を知ることになるというお話。
物質世界へ退化しつつあった一種族が,過去の遺産を残すために託した希望の“種子”が,「数学」だったのだ。
1964年の発表当時,作者は,数学専攻の大学院生だったとのことだが,いやもう,いかにも数学の楽しさを語る喜びを感じさせる話ではないですか。
数式,行列の抽象世界の描写は,数学音痴にとって,雰囲気だけしかわからないのが悔しいが、それでも、何かワクワクするんですね。
洒落っ気と茶目っ気で,ぐいぐいと押し切る爽快さは,ほんと小気味がよい。
「SFマガジン 2002年7月号」掲載。
