2022-01-01から1年間の記事一覧

限りなき夏~クリストファー・プリースト①

過去と未来がひとつになり,現在は消え失せ,生が静止した。永遠の生へと。

久しぶりに、百万編知恩寺の古本まつりに行きました。

今年の秋の百万編知恩寺の古本まつりは、10月29日から11月3日まで開催されました。 久しぶりにのぞいてみることにしました。前のブログ記事から見ると、8年ぶりということですね。 SFや怪奇幻想系がとんとなくなってしまったこともあり、今回は、…

死者登録~ジョー・ホールドマン②

「わたしにはしつっこい睡眠障害があり、生きていくにはなかなか辛いが、これは大事に持っていたいと思う。そりゃあ、大事にしたいとも。もとをただせば二十年も昔、ヴェトナムへとさかのぼるものだ。グレイヴズへと。」 ヴェトナム戦争時、米軍の戦死者の、…

征たれざる国~ジェフ・ライマン②

「みんな<死者>なんだ、と彼女は思った。みんな彼岸へわたろうとしているのよ。そう思うと、平和でくつろいだ気分になった。彼女の親しい人はみんな<死者>だった。背後の街では、茶色い煙がもくもくと立ちのぼっていた。 上空では、鳥たちがあいかわらず…

26モンキーズ、そして時の裂け目~キジ・ジョンスン①

「この一団を手に入れて三年になる。エイミーはかつて、ソルトレイク・シティ空港の離発着機の空路下にある月極めの家具付きアパートメントで暮らしていた。うつろだった。何かに身体を噛まれて穴が空き、その穴が感染してしまったかのようだった。 ユタ州特…

初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい〜ゼン・チョー

「ひとりになると、バイアムは服を脱ぎ、きちんとたたんで岩の上に置いた。そして何年も自分自身にかけていた術を解いた。 地下鉄から地上に出て新鮮な空気を深々と吸い込んだときのようだ。バイアムは初めて、不完全な自分に対する愛情がこみ上げてくるのを…

ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル〜テッド・チャン⑤

短編作家であるチャンにとって、短い長編並みのボリュームのある本編は、最長の作品となります。 仮想環境で生きているディジタル生物〜ディジエントを養育するという、ブルー・ガンマ社のプロジェクトの試みから物語は始まり、ディジエントが様々な人間と関…

郷村教師~劉慈欣①

「きみたちがわかっていないことはわかっている。でも暗記しなさい。いずれわかってくるから。ある物体に生じる加速度は、加えられた力に比例し、その物体の質量に反比例する」 「先生、ほんとにわかったから。お願い、休んで!」 最後の力で彼は叫んだ。 「…

時間飛行士へのささやかな贈物~フィリップ・K・ディック⑧

「アディスン・ダグは、プラスチックのまがいアカスギの小枝を滑りどめにはめこんだ長い小道を、大儀そうにとぼとぼと登っていた。 やや首をうなだれ、肉体の激しい苦痛に耐えているかのような足どりだった。ひとりの若い娘がそれを見まもっていた。彼女はと…

黄金律~デーモン・ナイト③

「黄金律」とは、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」との道徳の根本則であるが、本物語は、「黄金律」の否定型(silver rule)である「他の人からしてもらいたくないことは他の人に対してするな」がしっくりきます。 ミズ…

雨にうたれて~タニス・リー①

町に警報が鳴り響く。放射能やあらゆる毒素を含んだ鉛色の雨が降り注いでくる危険を知らせているのだ。

変革のとき~ジョアンナ・ラス

あのメッセージが送られてきたときユキは車の中にひとりでいて、ツー・トン式の信号を一生懸命解読したのだった。 ノッポで派手なわが娘は車からとびだしてありったけの声で叫んだのだった。だからむろん彼女もいっしょに来なければならなかった。 このコロ…

雪~ジョン・クロウリー

「それまでに、少なくとも八千時間分のジョージーを伝達済みだった。彼女の一日一日、一時間一時間、出かけたり帰ってきたりする姿、言葉や動き、生きた彼女そのもの—そのすべてが、ほとんど場所も取らずに「パーク」にファイルされている。 やがて時が来た…

ジャガンナート―世界の主~カリン・ティドベック

「偉大なるマザーの中で新しい子供が生まれ、<育児嚢>の天井に突き出したチューブから吐き出された。子供はビシャッという音を立てて生きた肉の寝床に落ちた。パパが足を引きずりながら分娩チューブに近づき、しなびた手に赤ん坊を抱きあげた。」 パパ曰く…

失われた時間の守護者~ハーラン・エリスン⑦

「もしもグレゴリウス教皇が、人々の心の中の時間を調整しなくてはならないという知識を啓示で受けていたならどうじゃ? もしも一五八二年の余計な時間が十一日と一時間だったらどうじゃ? もしその十一日は対処してきちんと消し去ったが、残った一時間がすべ…

システムの危殆~マーダーボット・ダイアリー~マーサ・ウェルズ

「統制モジュールをハッキングしたことで、大量殺人ボットになる可能性もありました。しかし直後に、弊社の衛星から流れる娯楽チャンネルの全フィードにアクセスできることに気づきました。以来、三万五千時間あまりが経過しましたが、殺人は犯さず、かわり…

オクテイヴィア・E・バトラーの短編集「血を分けた子ども」が刊行される!

高い評価を受けている作家でありながら、いくつかの作品がSFマガジン等に掲載されたきりで、だんだんと忘れられていくのも「もったいないなあ」ということで、このブログでも、作品の紹介を行ってきた作家の一人が、オクテイヴィア・E・バトラーです。 ・…

性器および/またはミスター・モリスン~キャロル・エムシュウィラー②

想像してもみてよ、あのとんでもなく太い脚がズボンにすべりこむところを。あの神さまみたいに太い(だって、ただの人間の脚が、あんなに太いわけないでしょう?)、トール神の脚かと思うほど太い脚が、ほら穴みたいに大きなズボンの穴にすべりこむところを…

ミイラ~アンドレイ・ラザルチューク

「なぜならば、もし得られたあらゆる知識をその創造のために消化、吸収できないのならば、共産主義は空虚なもの、空しい看板となり、共産主義者はただのほらふきになってしまうからだ。それゆえに、われわれは容赦ないのであり、だからこそ、われわれはどの…

シヴァの舞~江波

「いいえ、かれらはきっと何かしているんです。」 わたしはバロシディニアを見つめた。「連中が人類を南極に隔離し、その他の動物と平和共存しているってことは、きっと何か目的があるんです。連中は何かしているに違いないんです。」 バロシディニアは微笑…

目覚めの前に~キム・スタンリー・ロビンスン③

「おれたちは夢を見ることの意味を理解していないし、眠りが何なのかもわかっちゃいない。意識そのもの、つまり目が覚めてる状態すら少しも理解していなかったということを認めた上で、よく考えてみるんだ。本当にわかっていたのか、ってね。」 地球が突入し…

たとえ世界を失っても~シオドア・スタージョン⑥

「心のことばが言った。われわれはなぜ、自分で選んだ相手ではなく、稲妻に打たれた相手を愛さなければならないのか? そしてことばは言った。でも、その相手がきみでよかったよ。チビの王子さま。きみでよかった。」 惑星「ダーバヌー」から、突然、二人の異…

顔の美醜について~テッド・チャン④

「その根深い社会問題とは、ルッキズム、すなわち容貌差別です。 ここ数十年で、人種差別や性差別に関する議論は活発になりましたが、容貌差別についてはまだ遠慮があるようです。 けれども、恵まれない顔立ちの人びとに対する偏見は、信じられないほど広ま…

カロリーマン~パオロ・バチガルピ①

「考えてみるがいい。ケチんぼの亭主が女房を寝取られたことに気づかないまま、世界中にその実を配る。ところがその実は、受粉したい、健康な子をつくりたいとうずうずしているわけだ。その子孫も同じ花粉を宿し、それがさらにカロリー会社の収益源を汚染す…

死の船~バリントン・J・ベイリー④

「彼はジョイスティックに手をのばした。まず右へ、ついで上へスティックを動かすと、未来飛行船がガクンとかたむき、急角度で上昇した。 つぎの瞬間、デ・クルイフがシートベルトを外しにかかった。立ち上がると同時にアンビリカルコードを引き抜く。それか…

永夏の夢~夏笳①

「おまえはかつてこう言った。 あなたの時間は長すぎる。わたしの時間は短すぎる。だからわたしはあなたのそばに長くはいられない。わたしはいつか死ぬだろう。あなたはまだ生きていて、永遠に生き続ける。最後にはわたしを忘れてしまう。忘れられるのは死よ…

ロンドンにおける"ある出来事"の報告~チャイナ・ミエヴィル①

一九八八年二月十一日木曜日、可能な限り正確な時間として午前三時から午前五時十七分のあいだ、ロンドン南東局十八区のプラムステッド・ハイストリートを南にやや行ったあたりで、"ヴァーマン通り"が出現した。空間的制約のためか、今回のヴァーマン通りは…

ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?~ジェイムス・ティプトリー・ジュニア⑧

「ぼくは男だ。そうだ、怒ってる。ぼくには権利がある。きみたちにこのすべてを与えたのは、ぼくらなんだ。ぼくらが創りだしたのだ。かけがえのないきみらの文明を建設し、知識と慰めと薬と、そして夢を与えた。何もかもを。きみらを保護し、家族にすこしで…

不可視配給株式会社~ブライアン・w・オールディス⑤

「で、このひとの目的というのは?」ドアに向かいながら、皺だらけの男は軽い笑い声をあげた。必ずしも愉快そうではない、かといって、必ずしも非情とは言えぬ笑い声だった。「わかりきってるじゃないですか、そのポット二つを護ることですよ。おやすみ、ご…

ポータルズ・ノンストップ~コニー・ウィリス④

「フォート・サムナーにビリー・ザ・キッドのお墓がありますよ。ここからだいたい七十マイルですね」 ぼくはといえば、はるばるアリゾナ州ビスビーから車を運転してきたばかり。いま一番やりたくないのは、また車にもどって百四十マイルの距離を往復し、名前…