「われわれはみな裸で死ぬ」WE ALL DIE NAKED とは,一体何事でありましょう。
人類の排出する膨大な廃棄物による汚染によって,大気と海は危険物質に満ち溢れ,炭酸ガスによる温室効果は氷を溶かし続けます。
すっかり痛めつけられた地球に,さらに破滅的地殻変動が発生するおそれが見えてきます。
ここからは,ハードSF的説明が出てくるのでありますが,悲しいことに,物理音痴の私には理解できない。
一番肝心な部分での醍醐味を賞味できないのはつらいことです(だったら,物理の基礎くらい勉強しろって…)。
それだけの凝縮した氷(注:南極の氷です)を振り回していることが,莫大な量のエネルギー―慣性モーメント―に相当するということだ。もし,その氷が溶け,その質量が水として地球のまわりへ一様に分散したら,そのエネルギーはどこへいくだろうか?
この後⇒大量の熱の発生⇒全氷の解凍⇒歳差運動に加わるよろめき⇒周期変動のひずみ⇒地殻におけるひずみの放出⇒未曾有の火山活動
地球を脱出し,火星への移住を行う日まで,月を種族維持のための中継地にする計画が進められるのですが。
でも,ブリッシュさんは,この目論見もあっさりと否定してしまいます。
地球上に月が影響を及ぼすことのできる水の量が増加⇒月の軌道運行の速度の急激な増加⇒地球と月の回転の中心と地球の重心が別々に移動をはじめる⇒この変化が月にフィードバック⇒月世界の強烈な地震の発生
いっそ,すがすがしいばかりのペシミスティックな展開は結構好みですね。
ブリッシュさん,ご指摘のとおり,地球温暖化の問題は現実の課題となっておりますが,さて,このような切り口からの危険性というのは考えられるのでしょうかねえ。とんと,聞いたことがないんで,無視できる危険性なんでしょうか。
この物理法則的破滅以外にも,大深度地下への廃棄物投棄による問題や,運河開通による大西洋の汚染の太平洋への急激な拡大など,なんもいいことのない描写が畳みかけられていきまして,「公害」をメイン・テーマに描いた異色作品として有名なものとなっております。
ヒーローもおらず,災厄の中,みんな滅んでいくという,暗澹たるお話でして,人類への警鐘というより,どうしようもない人類を冷ややかに見ているという感じがいたします。
「SFマガジン」1971年9月号掲載。
