ゲイルズバーグの春を愛す~ジャック・フィニイ

 ジャック・フィニイは,同じ趣向の物語を何度も何度も描いている。古き良き時代への強烈なこだわりと愛着。頑固親父の,一念のようなものだ。

 この作品も,その代表的な作品の一つである。

 19世紀末の風情を色濃く残す美しい街,ゲイルズバーグにも,開発,近代化の波が押し寄せていたのであるが,街がそれに抵抗し,過去が現在を撃退するというお話である。

 町はずれに大工場を建設しようとした男は,昔の黄色い市電に轢かれそうになり,ポラード・プレイスという大きな旧屋敷からの出火は,馬のひく消防ポンプにより迅速に鎮火され,街一番の美しい農場を売却しようとした男には,壁掛け電話で,旧友から,インディアンの矢じり探しとウサギ狩りをしようという電話がかかってくるのだ。

 ノスタルジーにひたり,街が変貌していくのを,嘆くという話ではなく,過去が積極的に,古き良き街を破壊から守ろうとするのである。

 この話を,京都市にあてはめてみても面白い。

 「開発と保全」…なかなか,両立というか,バランスをとるのが困難な問題だ。

 京町家がどんどんつぶされて,高層マンションが林立し,景観の問題,コミュニティーの問題をはじめ,いわゆる「京都らしさ」がどんどん消え去るという話は耳新しいものではない。最近は,町家を改築したショップに人気が集まっているように,新しい流れも出てきているが。

 ゲイルズバーグでも消えてしまったが,市電,いわゆるチンチン電車も,存続か撤去か議論のあったところである。

 京都三山をはじめ,そこかしこにある寺院や神社の緑など,意外に多く守られてきた自然の保全についても,共通点がありそうである。

 過去の財産を大事に保全することも大切であるし,一方で,未来においての財産となる現代のものも付け加えていく必要もある。そうでないと,町としての活力がなくなるという意見もうなずける。それらが,うまく調和を保ちながら,全体として,さらに魅力あるものになればよいのだが。口でいうほど簡単ではないが。

 ハヤカワ文庫FT「ゲイルズバーグの春を愛す」の表題作。
 福島正美氏の解説は,この作家の特質を的確にとらえており,すぐれもの。

 異色作家短編集で,「レベル3」が復刊されるらしいので,お楽しみである。