この作品は,ユーモアものでは,定番の作品です。
1300年,ヴェネチアの商館に,一人の男が現れ,当主との間で,10枚の金貨を,100年間,年率利子1割で信託するという奇特な約定を行います。
その際に,その男スミスは,マルコ・ポーロへの援助,ハンザ同盟への加入等の予言めいた忠告を行うのでした。
ちょうど100年後,代替わりの当主のもとに,再び,スミスが現れます。
当然,元本・利子の回収と考えた当主ですが,スミスは,全額を同一条件で再度信託するとともに,また今後100年の計を教唆するのでした。
100年ごとに現れるスミスは,伝説的存在となり,古今未曾有の資産が蓄積され、その運用と管理を図る強固な組織が築かれることとなります。もちろん,契約を守るため,幾多の戦争すらあったのです。
1960年7月16日,今回は,100年経たずにスミスは現れます。
スミスは,実はタイムマシンを研究しているアラン・シアリー教授であるという素性を明かすとともに,全資産の引き出しをするというのです。
教授は、時間旅行のための膨大なエネルギーを調達可能な資金を手に入れることができるように,資金調達のための種を1300年にまきにいくのだとのたまいます。
まして,この教授は,組織が,スミスの正体を探るために,時間旅行の可能性の研究を委嘱した相手というのだから,話はややこしい。
組織の人たちは,無論,唖然,呆然です。
「では,この六世紀間の人類の歴史は,たったこれだけの意味しかなかったのか…」
シアリー教授の答えは,実にふるっていて明快。
まあ,他愛のない話といってしまえばそれまでだが,肩こらずに読めて,痛烈なオチを楽しめるという点では十分でしょう。
ところで,当初1円で,利子1割の複利計算を600年行うと,約6,848,746,554,171,320,000,000,000円になる(あってるかな?)。
億,兆,京までは,わかるが,先頭の位は,杼(じょ:娘の教科書では,のぎへんらしいが),次は垓(がい)というらしいが,いずれにしても,天文学的数字である。
最初の金貨の価値が,1300年当時で,約49チェッキーノという話だったから,やっぱり,年利1割という設定は暴利ですね。
創元SF文庫「SF ベスト・オブ・ザ・ベスト 上巻」収録。
やっぱり,このアンソロジーは,粒ぞろいの作品が揃っています。
