海外SF短編

わたしは無~エリンク・フランク・ラッセル②

エリンク・フランク・ラッセルといっても、ほぼほぼ忘れられた存在になっていると思います。 私もそうですが、2013年の創元の復刊フェアのラインアップの一つである、ラッセルの短編集「わたしは”無”」を買って積んでおいたのを、この正月にたまたま読んでみ…

「やせっぽちの真白き公爵の帰還」~ニール・ゲイマン②

David Bowieがこの世を去ったのは、2016年の今日、1月10日でした。 私の住む京都には、ところどころに京都を愛したボウイの足跡が残っています。 1970年代後半、アメリカから欧州へと戻ったボウイは、「ロウ」(1977年)「英雄夢語り」(1977年)「ロジャー…

SFマガジン 2025オールタイム・ベストSF「海外短編部門」発表!

「SFマガジン」2025年2月号(第767号)は、創刊65周年記念として、オールタイム・ベストSFを発表しています。 2014年から10年ぶりとのことですが、オールドファンの私としては、その昔のオールタイムベストと比べながら、見ていきたいと思…

スロウボート・マン~ディーン・ウェズリイ・スミス

「人生がどんなに長くても、あるいは短くても、ものごとには一度だけでじゅうぶんすばらしいこともあるわ。おやすみなさい、わたしのスロウボート・マン。おやすみなさい」 永い時を生きる吸血鬼の女性が、ただ一人愛した男性との出会いと別れを描き、小品な…

バーナス鉱山全景図~ショーン・ウィリアムズ①

鉱山の奥深く、わたしの足の下でゆっくりと自転しているのは、一つの惑星だった。 「こんなこと、ありえない」途方もないエネルギーが大陸サイズの岩の塊を切り出す様子に、わたしは息を呑んだ。視点はかなりの高度で—少なくとも三万メートルはあり—その光景…

第六ポンプ~パオロ・バチガルピ②

「おまえはトログ並みのバカだな。ライターの火でガス漏れを調べるなんて、頭に脳みそはいってるか?ボケちまったのか?」 環境汚染が進み、人々は、有害物質にさらされ、添加物だらけの食品にさらされて、痴呆化と妊娠異常が深刻となっている、気の滅入るよ…

タズー惑星の地下鉄~コリン・キャップ

「埋もれた秀作をふたたび世に出したい」 宇宙探査SF傑作選「星、はるか遠く」(創元SF文庫)の巻末解説で、編者の中村融氏が語る、アンソロジーを手掛ける際のコンセプトです。 私も、SFマガジンなどに訳載されたきりで、忘却されるのは惜しいなあと…

「監視者」~リチャード・カウパー

"監視者を監視するは誰ぞ?" リチャード・カウパー(1926~2002)を知る人はそんなに多くないでしょう。ジョン・ミドルトン・マリー・ジュニアという作家が、60年代中頃から、SFやファンタジーに主力を移した際に、別ネームとして使用した名前です。 彼の…

思考と離れた感覚~マーク・クリフトン

コンピーター・リサーチ社なるところで人事部長をしているケネディ。 会社の研究者オーエルバッハ博士は、脳が記憶を蓄えるように、未知の超自然的な力を、現実の力に変換し、貯めることができる機器を発見しています。 この研究を発展させて「反重力」を手…

オープン・ロードの聖母様~サラ・ピンスカー①

感染症の蔓延と、「生」ではなくても、ステージを手軽に楽しめるホログラムが音楽産業の主要なコンテンツとして「蔓延」したおかげで、ライブがすっかり廃れてしまった時代に逆らって、わずかに残るファンを相手のギグにこだわって、町から町へと、どさ回り…

「花の名前」~ケイト・ウィルヘルム②

サッシー・フランシー:ユキノシタ科:ときにマザー・オブ・サウザンドとよばれる 仕事も一段落し、久々の休暇をニューイングランドで楽しんでいたウィンストン。愛車のサンダーバードを駆って、気ままな旅を続ける途中、アトランティック・シティを訪れたウ…

ロボットとカラスがイーストセントルイスを救った話~アナリー・ニューイッツ①

If human is angry, then Robot is sad. If human is rude, then Robot is embarrassed. If human is happy, then Robot is happy. 主人公は、感染症の蔓延を予防するため、エリア内を巡回し、住人の健康チェックにいそしむドローン型のロボットです。役目が…

エシア~クリスティン・キャスリン・ラッシュ②

「まぶたをとじると、はじめて出会ったときの彼女の姿が目に浮かんでくる。小さくて、きゃしゃで、異様なまでに血の気のない肌と、目じりのつりあがったチョコレート色の目をしていて。髪は、雲のない晩に見る月のように白かった。」 月に建造されたコロニー…

シュレディンガーの子猫~ジョージ・アレック・エフィンジャー②

19世紀末のイスラム世界にあるまち、ブーダインのラマダン明けの祭礼の夜、貧民街の暗がりの薄汚れた路地に、12歳の少女ジハーンが誰かを待っています。 この夜からのジハーンの運命は、どのように展開していくのか、彼女にもわかりません。 一つの物語…

ファン・ゴッホによる<苦痛の王>の未完の肖像~イアン・マクドナルド②

「<苦痛の王>は、喜びと悲しみの両方を、涙と笑いの両方を、成功と失敗の両方を、正気と狂気の両方を知っている者でなくてはならない。人間であるということがどういうものなのかを正確に知っている人物でなければならない。どんなに恐ろしくてどんなにす…

薄明の朝食~フィリップ・K・デイック⑨

何でもない、いつもどおりの朝の食卓を囲んでいたティム一家。 その場へ、ドアを蹴破り、ものものしい雰囲気の兵士たちが踏み込んできます。 驚くティムですが、兵士たちは、家族が平穏にいっしょに暮らしていること、コーヒーを飲み、豊かな食事をし、冷蔵…

進化~ナンシー・クレス②

あらゆる抗生物質に耐性ができた細菌が蔓延。唯一、「エンドジン」だけが、かろうじてまだ効果があるものの、細菌が耐性を獲得することを防止するために、「エンドジン」による治療をさせまいと、過激な集団が、病院の爆破を繰り返し実行するという、暗澹と…

「壊れやすいもの」~ニール・ゲイマン

ニール・ゲイマンの短篇集「壊れやすいもの」は、ゲイマンの多才さ、多彩さを味わえ、また、ヒューゴー賞、ローカス賞を受賞した作品が多く含まれる高品質の作品集です。 いくつかの作品をご紹介します。「翠色の習作」(2004年ヒューゴー賞、ローカス賞…

ローグ・ファーム~チャールズ・ストロス

宇宙への植民による人口減少や、バイオテクノロジーの進展によって「光合成」で自足できる人々の出現などにより、農業経営が成り立たなくなり、農村が徐々に崩壊していく中で、放棄された農地と取り残された廃屋に、いつしか、過剰なテクノロジーとストレス…

「時の娘」~ロマンティック時間SF傑作選

「時間」を超える物語は、SFの定番・鉄板の分野で、膨大な作品とともに、数多のアンソロジーが編まれています。 このアンソロジーは、SFマガジンなどに掲載されたきりで埋もれていたワンヒットワンダーの名作にスポットをあてた、オールドファンにとって…

「宇宙飛行士ピルクス物語」~「審問」「運命の女神」~スタニスワフ・レム①

「要約: レムの小説観は非常に狭苦しくとんちんかんであり、おそらくそれはかれの社会性の欠如からきている。レムの作品に一貫するのは人間嫌いと社会の不在であり、それはかれのぶっとんだ小説のおもしろさの源泉であると同時に一つの限界でもある。感情な…

ペトラ~グレッグ・ベア②

「わたしは醜い石と肉の子であり、それを否定することはできない。母のことは覚えていない。わたしが生まれてすぐに蒸発したのかもしれない。どうせ死んでいるのだろう。わたしは父の姿も―息子と似ているとすれば、くちばしがあり、翼もどきのものがついた醜…

「中国・アメリカ 謎SF」~王諾諾の二題

『改良人類』 「「どのぐらい寝てたんだい?」 「六一七年と三か月になります」 「は?600年?なんで起こしてくれなかったんだよ!」 ALSを患っていた主人公の劉海南は、治療法が確立されているであろう未来に希望を託して冷凍睡眠に入っていました。…

分離~サム・J・ミラー

「(おれの息子を返してくれ。)と叫びたかった。(おれを愛してくれる息子を。あの子はどこにいるんだ。あの子になにをした。この不機嫌そうな生き物は、どこのどいつだ。)眼下に張りめぐらされた、クアナークの二百万におよぶ命をささえている鋼鉄の格子…

エンパイア・スター~サミュエル・R・ディレイニー②

「わたしは"宝石"。わたしは多観(マルチプレックス)な意識を持つ。これはつまり、さまざまな視点からものごとを見られるということである。わたしの内部構造における振動パターンの倍音列。それが持つ働きのひとつこそは、この多観性にほかならない。ゆえ…

限りなき夏~クリストファー・プリースト①

過去と未来がひとつになり,現在は消え失せ,生が静止した。永遠の生へと。

死者登録~ジョー・ホールドマン②

「わたしにはしつっこい睡眠障害があり、生きていくにはなかなか辛いが、これは大事に持っていたいと思う。そりゃあ、大事にしたいとも。もとをただせば二十年も昔、ヴェトナムへとさかのぼるものだ。グレイヴズへと。」 ヴェトナム戦争時、米軍の戦死者の、…

征たれざる国~ジェフ・ライマン②

「みんな<死者>なんだ、と彼女は思った。みんな彼岸へわたろうとしているのよ。そう思うと、平和でくつろいだ気分になった。彼女の親しい人はみんな<死者>だった。背後の街では、茶色い煙がもくもくと立ちのぼっていた。 上空では、鳥たちがあいかわらず…

26モンキーズ、そして時の裂け目~キジ・ジョンスン①

「この一団を手に入れて三年になる。エイミーはかつて、ソルトレイク・シティ空港の離発着機の空路下にある月極めの家具付きアパートメントで暮らしていた。うつろだった。何かに身体を噛まれて穴が空き、その穴が感染してしまったかのようだった。 ユタ州特…

初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい〜ゼン・チョー

「ひとりになると、バイアムは服を脱ぎ、きちんとたたんで岩の上に置いた。そして何年も自分自身にかけていた術を解いた。 地下鉄から地上に出て新鮮な空気を深々と吸い込んだときのようだ。バイアムは初めて、不完全な自分に対する愛情がこみ上げてくるのを…