台地の登りは45度にもなる急角度。さすがに自走はできないので、大規模な歯軌条のトラック用リフトが設置されています
トラック・ドライバーのCDは、行きの道すがら、雨中にヒッチハイクの少年を拾います。少年は、リフトの終点で仕事をしている父親に会いに行くということでトラックに乗り込みます。CDは、少年のことを詮索もせず、プライドを傷つけないよう、一人前に扱ってやります。
リフトの終点で少年を降ろしたCDですが、しばしの休憩の後、いざ出発しようとしたところ、少年がやってきて、父親が見つからず、祖母のところに行くようにとの書置きがあったと話します。CDは、何も言わずに少年をトラックに乗せ、シャーロットまで二人連れで山越えを行うことになります。
CDは、ビッスンの物語の主人公らしく、相棒のトラックとカントリーミュージックをこよなく愛するブルーワーカーで、機械油がよく似合いそうです。
危険な山越えを生業にしている、ヒロイックな人物でもあります。きっとユーモアとペーソスを漂わせる風貌で、ビッスン自身によく似ていることでしょう。
「熊が火を発見する」で、主人公がパンクしたタイヤを甥っ子に手伝わせながら、ちゃっちゃと手早く取り替えるシーンがありましたが、ビッスンは、こういう、ローテクだけど、人の手による熟練した技というものに愛着を感じているんだと思います。
また、このとんでもない台地から臨むことができる絶景の描写も、この物語の魅力です。
高度が上がるにつれ、下方には、果てしない雲海が広がり、上方には、星もまたたかぬ紺碧の空が、そして、下りでは、大西洋湾岸までが一望できます。
そして、もちろん、ビッスンの「南部臭さ」というか、郷愁めいた不思議な味わいが物語の基調となっています。過激さのないランズデールのような味なんですよね。
CDは、少年に、自分の若い頃を重ね合わせています。少年との山越えによって、CDは、昔に背負った後ろめたい借りを返すことができ、心が晴れたように笑い出します。山越えの途中に出くわす、こんな場所に適応するようになった巨大ロブスターにかかわって徒労に終わるエピソードも物語のトーンに合っていて上手いですね。酒場でバーボンを飲みながら聴きたいお話です。
ビッスンは、2024年に81歳で死去。メジャーではありませんが、心に残る作品が多く、埋もれていくのは惜しいと思っています。

