スカーレット・レイディ~キース・ロバーツ①

 妖美なフォルムの朱色の巨大なセダン。
 髑髏のごとき表情を有するこの車は,乗る人を虜にし,禍々しい災いをもたらす恐るべき車です。

 何より,この車,“血”を見るのが大好きというから何とも怖いじゃないですか。
 離れようにも離れられない,希代の悪女という感じですね。

 物語自体は,極めてストレート。
 ああ,もうやな展開になるなと思ったとおり,悲惨な人身事故が何度も発生。

 こんな凶悪な車,さっさと手放してしまえばよいのに,そうならない歯がゆさが
まあ,定番というところです。
 
 前記事のラファティさんの「田園の女王」では,車の有する危険な魅力と乗る人の性格を変えてしまうような狂気さを指摘していましたが,そんな車の不気味さが具現化したような物語です。

 車は,生活に密着し,欠かせないものとして,あまりにも「素肌」に近い存在であり,また,生身ではとても及ばないスピードと馬力を有することによる強烈な陶酔を通じた自己との一体化が容易な存在でもあるため,この物語のような“擬人化”が受け入れられやすいものであると思います。

 マシスンの,あの「激突!」においては,運転手がトラックと一体化して溶け込んでしまっておりますし,キングのトラックは,完全に自由意志で動くモンスターと化しています。

 その点,スカーレット・レイディは,あくまでも,“偶然の事故”であることを前提に,超自然的な雰囲気を色濃くしているところが特徴かな。
 
 ところで,昔,こんな車が現実に存在したということを記憶しておりまして,「死神」,「車」で検索いたしましたら,ありましたね「死神ベンツ」
 
 あの第一次世界大戦の引き金となったサラエボでの事件で,皇太子が乗車していた車だという真っ赤なベンツは,ボディの色を塗り替えても凶事がおさまらなかったというただならぬ車だったようで,ロバーツさんはこのエピソードを元にしたのでしょうね。

 創元推理文庫「千の脚を持つ男」に収録。