エリンク・フランク・ラッセルといっても、ほぼほぼ忘れられた存在になっていると思います。
私もそうですが、2013年の創元の復刊フェアのラインアップの一つである、ラッセルの短編集「わたしは”無”」を買って積んでおいたのを、この正月にたまたま読んでみたところ、意外に面白く、紹介してみる気になりました。
最も有名な短編は、ヒューゴー賞受賞作の「ちんぷんかんぷん」(英語)だと思いますが、この短編集には、少し毛色が異なり、ヒューマニスティックな主張が前面に出ている作品が納められています。
タイトルナンバーの「わたしは”無”」は、人類が宇宙に築いた幾多の世界のうち、モーサインという有力な世界を統べる冷酷無慈悲な鉄の意志を持つ支配者が仕掛けた星間戦争により、すべてを奪われた少女がこの支配者のもとへと送られてくるお話です。
息子を戦いの最前線へと送り込んだ支配者は、息子が戦功をあげるどころか、心を奪われてしまったという敵の女性を実家に送ったと知って、腑抜けた始末と激怒しますが、実はそれがこの女の子だったというわけです。少女は、何の反抗もしませんが、大きなうつろな目を開いたまま、全く心を閉ざしています。支配者は、彼女の存在に、次第に心乱され、いたたまれなくなっていきます。
お世辞にも、洗練されているとはいえないし、支配者の家父長的価値観の月並みさに辟易する向きもあると思います。
そして予想されるとおりの、大変にベタな展開なのですが、照れることのない真っ向勝負の迫力というものがあるんですね。手の込みすぎないストレートさの魅力のある作品であると思います。
「ディア・デビル」は、人類が自ら招いた災厄によりすっかり荒廃してしまった地球を訪れた火星人調査隊の一員である、詩人「ファンダー」が、一人地球にとどまり、かろうじて生き残った人類を優しく見守り、若者を育て、励ましながら、復興を助けるというお話です。
ゼラズニイの「12月の鍵」を思い起こします。もちろんゼラズニイの方がお洒落でツボを押さえているんですが、エリンク・フランク・ラッセルの武骨さも意外に感動的なのが面白いんですね。
本来のタイトルナンバーである「どこかで声が・・・」は、宇宙船が隕石により大きな事故にあい、ヴァルミアと呼ばれる惑星に不時着してしまった一団が、惑星に唯一設けられている救急ステーションを目指して未知の危険地帯を踏破していくお話です。
この生き残りの一団は、白人、黒人、東洋人、ユダヤ人など色んな人種と犬が含まれ、田舎の老夫婦、船の雑役など、生業も様々で、とても精鋭部隊とはほど遠い状況です。
ストーリーは、副機関士で、文身だらけの、体重200ポンドを超える巨体を誇り、典型的な「・・意識」を持つ白人男性の目を通して、展開します。察しがつくと思いますが、人種差別、偏見を真正面にテーマに据えています。
この作品は、ハッピーエンドに終わらず、いろいろと繰り出されるグロテスクな異星生物に一人また一人と犠牲になっていきます。
ベタつく甘さが少ないため、こちらの方が好みの読者もおられるかと思います。
