天才科学者ナサニエル・ベヴァリッジのいる惑星アイロス。
この惑星は,オゾン濃度が高い大気を有し,固有植物から,人類にとって不可欠の抗コレステロール薬の原料を算出することが可能でした。
しかし,同薬の精製の手法が明かされるという,惑星の経済基盤を揺るがす事態が起こるのですが,博士は,抗コレステロール薬以外に,このコロニーを持続させるための特産物をすでに考案していたのです。
その,夢の合金とは…
「室温での引っ張り強度は,一平方インチあたり48万6千ポンド。摂氏千度でも45万ポンドだ。これのヤング率は摂氏千度でちょうど10億ぐらい。剪断弾性係数は7億5千万だ。チャーピーの衝撃テストをしたら,ハンマーが壊れちまった。弾性率は1だ。収率での伸張度は100%。驚いたな,いったい何だね,これは?」
どうです,ガチガチのハード系の文章でありますが,作者は,特許弁理士を本業にしている二足の草鞋作家。
あちらでも,地味な存在らしいが,結構,邦訳作品もあり,しかも,なかなかよい作品が多くあります。
この作品のほかにも,衛星船の愚劣なチキン・レースを描いた「衝突針路」,地球の気候を一手に握る評議会の話「ウェザー・マン」や,B級ホラーSF“ブロブ”の原作とおぼしき「群体」などが面白いですね。
さて,考えていることの半分も表現できない口下手の博士は,先々に小賢しく口を挟む人々の前では,無口になってしまいます。
本当は,溢れんばかりの豊かなアイデアを頭にしまっているのに,誰もが,性急さのため,それに気がついていないのです。
博士に理解を示すアーシュラの「少し黙って,彼に喋らせてあげたら?」という台詞…わかるよねえ。
作者も,そういうタイプなんじゃないでしょうか。
デモンストレーションの下手な,こつこつ地道にやっている不器用な人間への同情というか。
でも,物言わぬとも,相応の実力を有していることが前提なんですけれどね。
しかも,博士は,なかなかのパイオニア精神の持ち主なのです。
「故郷の星にとどまって無為に人生を送るのではなく,宇宙のいたるところで適応し,変革を起こし,発展していく新しい生き方を未知の土地で見いだすのだ。」
ところで,動脈硬化の危険を回避し,いつでも,さらさら血を体中に行き渡らせることのできる,素晴らしい“抗コレステロール薬”。
ほしいですよね。
私も,痩せているのに,コレステロール値がえらく高い(300超!)体質なので。
よく効く薬はあるのですが,やっぱり副作用が心配。
人によっては,肝臓を傷めるようだし。
「SFマガジン」1987年5月号掲載。
