バビロンの都に聳え立つ塔。
塔の基部は一辺およそ30メートル。どんどんと上に伸び続け,ついには視界の彼方へと消えてしまう。
エラムの国からやってきた鉱夫たち。
彼らは,空の丸天井に穴を掘りにやってきたらしい。
何世代にもわたって,せっせと塔を上へ上へと積み重ねてきた結果,どうやら,到達すべきところまでいったようだ。
鉱夫たちは,何日も何日もかけて塔への登攀を開始する。
次第に,下景が霞む,それでも,まだまだ天辺には程遠い。
月を越え,太陽を越え,星を越え,ようやく,丸天井に到達。
ここからが,鉱夫たちの出番だ。
硬い花崗岩の岩盤を穿ち,丸天井を掘り進む。
大洪水をくぐりぬけ,天井の上に顔をだしたとき,一体何を見たのでありましょう。
テッド・チャンのデビュー作にして、ネビュラ賞(1990年度ノヴェレット部門)を獲得した作品であります。
天空高くそびえる塔という非常にファンタジックな題材ですが,塔を上がり下がりして必要物資の運搬を担当する車力たちや,塔に住み着いた人々の暮らしをいきいきと,まるでドキュメンタリーのように描いているため,奇妙に現実感があるんですよね。
塔の中途で鉱夫たちが目におさめる印象的なシーン。
巨大な円柱のふもとで,小さなバビロンの都が影に包まれている。やがてその影が,上に向かってひらく天蓋のように,塔をよじ登ってきた。その動きは,ヒラルムが刻々と過ぎる瞬間を数えられるほどに遅かったが,近づくにつれてしだいに速まり,あっというまに彼らの前を通りすぎて,あたりは薄暗がりの中におかれてしまった。ごろりと寝返りをうったヒラルムは,闇が塔の残りを駆けのぼっていくのを見るのに間に合った。太陽がはるか彼方の世界のへりから下へ沈むのにつれて,空が暗くなってきた。
長々と引用してしまいましたが,この作品の魅力は,このような質実な筆力というところにあるのではないかと思います。
この物語の結末は,まあ,予想できるようなものともいえますが,はちゃめちゃには流れない,生真面目な作品といえましょう。
できれば,もうちょいと,奔放なラストでもよかったのかなという気はしますが。
