予定犯罪者~ウィリアム・テン③

 この作品は,シャープな切り口が素敵なウィリアム・テンの異色作であります。

 予定犯罪者とは,正当な!殺人の権利を得るために,あらかじめ流刑惑星での苛酷な服役につくことを選択した者のこと。

 まだ犯していない罪の前倒し?の特例として,刑期を通常の5割減の7年に設定されています。

 ただし,とんでもない危険な生き物がわんさかいる惑星での刑期満了は,7年でも極めて珍しいことなのです。

 大抵は,1年たらずで音を上げてしまいますが,この場合は、もちろんその期間は単にチャラになってしまいます。

 一方で、殺人を行った場合は,このえげつない流刑惑星での,7年の倍以上にわたる苦役が課されると思えば,とてもそうする気などおこりません。

 つまり,この制度は,合法的殺人を推奨しているようでいて,実は犯罪抑止に大いなる効果をあげていると認められているのです。

 主人公は,この刑期を何とかつとめあげ,大手を振って,一人の人間を殺すことのできる権利を得ます。

 彼をペテンにかけ,技術を横取りにした男がターゲット。

 殺される恐怖を味わえとほくそ笑む主人公のところに,入れかわり立ちかわり,
身近な人々,そうでない人々からの連絡が入ってきます。

 ここいらのやりとりは,シニカルでならすテンの筆が冴え,ニヤリとさせられるシーンが続出です。
 とりわけ,別れた妻のポリーが最高。

 「ニック,ほんとういって,わたしが浮気をしたのは一年ちょっと,せいぜい二年だったわ。ほんとうよ,ニック!それも,ニック,いまいったひとりだけ―ほかのはなんでもないわ。あれは,ただの―ただの遊びなのよ。問題にもならないわ,ニック!だから,殺さないで!」

 このように,主人公は,いかにお人よしで,よいようにカモられていたかという事実が色々と判明してくるのです。

 だんだんとアホらしくなってくる主人公。


 それにしても,なかなか奇抜な発想ですね。
 よく似た設定のディックの短編では,予知能力者により,犯罪予定者を未遂のうちに逮捕するという設定でどうも胡散臭げなところもあるのですが,テンのこの作品の方が復讐としての現実味があって面白いと思っています。

 ただ,昨今の動機がわけわからない殺人者が,こんな権利を得たら,怖いですねえ。 

 そんな衝動的,刹那主義的人間が,じっと7年を耐え忍ぶことのできるほどの輩かどうかの問題はありますが。

 とにかく,ブラックな笑いにあふれるお勧め作品。主人公の相棒を,浅倉先生は,コテコテの関西弁訳をあてておられるのが,やや気になりますが。

 新潮文庫「SF九つの犯罪」に収録。