90億の神の御名~アーサー.C.クラーク②

 チベットの僧院から,電子計算機の注文とは,いったい何のことでしょう。

 そのラマ僧が言うには,過去三世紀にわたって,一つの遠大な事業に取り組んできたと…。

 神のあらゆる御名を含むようなリストをこしらえているのです。

 信ずべき理由により,神の御名は,すべてわたしどもの文字で九字以内で書けるはずなのです。

 彼らは,神のあらゆる名前(約90億らしいが)を全部リストに載せ終わったとき,神の意図が成就されると信じているらしい。

 つまり,人類はそのために創造されたものであって,それをやりとげた暁にはもう存続の意義すらないらしいのです。


 なんとも,バカバカしくもシュールな設定です。

 神の名前の配列にも,一つルールがあって,連続して同じ文字が三文字続くことはないというところなど,笑えてしまいます。

 順列か組み合わせの入試問題みたいですね。

 この作品の発表当時の1953年と比較して,計算機の演算能力は桁違いに進歩しているのですが,打ち出した紙を,ラマ僧たちが,巻物にしていくという作業の方が大変だろうなということは同じかなという気がします。

 エンディングは,身もふたもありません。
 いったい,人類とは,なんだったんだという虚脱感に襲われますね。


 ところで,ランダムに膨大な文字の組み合わせを行うといえば,ラファティの作品に「寿限無寿限無」(Been a Long Long Time)なる,これもものすごい話があります。

 もし六匹の猿が六台のタイプライターの前にすわり,十分に長い時間をかけて打ち続ければ,いつかはシェイクスピアの全著作を一字一句違わずタイプできるだろう。

 どちらの作品も,力が抜けてしまう,情けない笑いの好きな方には,おすすめです。

 それにしても,クラークは,この作品で,何か,教訓めいたことを言おうとしているのでしょうか?