シェッキー・キングは,ショービジネス界で「成功」をおさめた男。
この5年間出演したすべてのクラブで記録を更新し,発売したアルバムはすべて200万枚突破を果たし,三度のエミー賞をはじめとする数え切れないほどの受賞歴を誇る36歳のミュージシャン。
そんな彼が,緊張しきった様子で,エージェントのジョージに頼んだのは,下町の薄汚い床屋の予約をとることだった。
ところが,床屋のおやじエディは,やおら,予約の帳面を繰りながら言うには,予約がいっぱいで受けられないとのこと。
ジョージは,金のみならず,あらゆる方法で予約をとろうとするが,エディは聞き入れず,受けられないとの返事だけ。
ボーモントさんの,奇妙な味の作品であります。
まあ,最初から,どんな展開になるのかは読めますし,エディの客を選ぶ基準というのも,だいたいのところわかるようになっているため,それほどシュールな,解釈不能でイライラするというタイプのものではありません。
エディが,「成功者」のみ受け入れるという噂は,芸能界全般に有名なもののようでありまして,予約をとれた者は羨望の眼差しで見られるといいます。ただし,この「成功者」というところが曲者でして,どうもスターの座をつかんだだけではだめなようです。
成功するために,他人を蹴落とし,犠牲にして,のし上がっていく
―それはやむを得ないところといいながら,どこかで,良心の呵責に悩まされている「成功者」たちの「不安」,さらにつかんだ成功が将来も保証されるわけではないという「不安」,自分の成功は誰からも認められるはずという「不安」が,エディの存在を巨大にしているのかもしれません。
ボーモントさんは,「成功者」には,こういう心の葛藤があることを前提として,このようなストーリーを考えたと思いますが,「成功者」は,そんなやわな連中ばかりでしょうか。気にもかけない,あるいは割り切ってしまえる,ましてやジンクスに踊らされないというのが,「成功者」の所以であるといえば言い過ぎか。そういってしまえば,話が成り立たないのですが。
オチは,きれいですが,小噺みたいになっていますね。
「床屋の予約」(Appointment with Eddie)という邦題は,どうかなあと思っておりましたが,オチの雰囲気からは,この落語的タイトルもよしかなあ。
