インスマウスの影~H.P.ラヴクラフト①

 マサチューセッツ州アーカム近郊に位置する町インスマウス

 かつての賑わった姿はすでになく,ダゴン密教団という怪しげな宗団に支配され,1846年の忌まわしい災いにより住民の多くが命を落とした後は,インスマウスは呪われた地として他の地域の人々から忌み嫌われ,外部との交流がほとんどない荒廃した町となり果てていました。

 太古から存する水中に住むという種族から,一定の漁獲の保証を受けるのと引き換えに,この種族とおぞましい協定を結んだことによるせいか,町の人々は,なんとも奇態な“インスマウス面”をしている者が多いとの噂がされています。

 主人公は,郷土史に興味のある若者で,インスマウスを訪れるうち,次第にこの町に隠されている闇の事実を知ることになりますが,それを感知した人々により,主人公は生命の危機に陥ることになります。
 

 ラヴクラフト先生のクトゥルー神話導入の一編というべき著名な作品で,私が一番好きなものです。

 意外性を秘めた結末も含めて筋立てもよいのですが,やはり,この作品の魅力は,インスマウスのまちの描写にあるでしょう。

 陰鬱で,もの寂れているとともに,どこか邪悪めいたものが住まわっているようなおどろおどろしい雰囲気に覆われた荒れた通りの家々。

 ぽつぽつと見かける“インスマウス面”の住民たちが,不審げに主人公を見やります。

 まち全体を覆う不吉な影を感じさせて,実在のインスマウスに迷い込んだような気分にさせてくれます。

 ラヴクラフトさんが愛着?をこめて作り出した架空の町なんですが,そういう思い入れを感じます。

 蛇足ながら,この作品を原作として,ジョン・カーペンター監督の「マウス・オブ・マッドネス」という、何とも気味の悪い映画がありましたが,これは、あんまり原作に忠実ではありませんでしたね。

 ある作家の作品を読んだ人達がみな異形の世界へと引きずり込まれてしまうという設定は悪くなかったんですが,そこまで怖くなかったしなあ。