「おれたちは夢を見ることの意味を理解していないし、眠りが何なのかもわかっちゃいない。意識そのもの、つまり目が覚めてる状態すら少しも理解していなかったということを認めた上で、よく考えてみるんだ。本当にわかっていたのか、ってね。」
地球が突入してしまった強力な電磁場の作用により、人類が「レム睡眠」の状態に陥ってしまい、脳は、何とか覚醒しようとするものの、力場はそれに反発するため、人は、夢と現実を行きつ戻りつ、境目のわからない世界を生きているというお話です。
アバナシーは、ラボの研究員で、何とか、覚醒状態を少しでも長く維持できるための研究を続けています。
しかし、ラボにいるにもかかわらず、ふと気づくと、いつの間にやら、山中の湖に臨む窪地、妻のジルと子供たちと暮らしていた街へと迷い込みます。夢が現実に侵入し、目覚めたところが、どちらなのかも判然としない。
私たちも、時折、寝入りや寝起きに、半覚醒状態で夢とうつつがよくわからずに、まどろむようなときがありますね。でも、そんな、気分のよさなど欠片もない、何とも居心地の悪い、そして、目覚めても救いのない暗鬱たる状況がずっと続く、陰気な短編ではあります。
今や焼け野原となり残骸が残るだけの、かつての住まいに関わる夢は、もっとも胸苦しいものがあります。暗示的に示されていますが、アバナシーは、本当に家族のことを大事にし、優先していたのだろうか。
自責の念が、何度も、この夢として現れるのは、アバナシーのトラウマのごとき心象風景が映し出されているかのようです。
アバナシーは、何とか、力場を緩和できるヘルメットを作り出し、ラボの仲間に着用させようとしますが・・・。
「力場」によって、脳に影響が発生するという話は、ポール・アンダースンの「脳波」のアイデアで、これは、進化にブレーキをかけていた「力場」からの解放により、あらゆる生物の知力が急激に進歩するという設定で、それに順応できる人とそうでない人を描く、私の好きな作品です。
でも、このお話は、退化に引きずり込まれるような、「目覚めの悪い」感覚に終始します。進化の行き止まりに近づき、異様に睡眠時間が長くなる、バラードの「時の声」の読後感とよく似ています。
正直、受けが悪い作品であろうと思いますが、このような「終末観」は、なかなか味わい深いところもあります。グルーミーな雰囲気にぜひ浸ってみてください。
「SFマガジン」1998年4月号掲載