ローグ・ファーム~チャールズ・ストロス

 宇宙への植民による人口減少や、バイオテクノロジーの進展によって「光合成」で自足できる人々の出現などにより、農業経営が成り立たなくなり、農村が徐々に崩壊していく中で、放棄された農地と取り残された廃屋に、いつしか、過剰なテクノロジーとストレスやトラウマに苛まれ、逃れてきた人々が住み着くようになっていました。

 そんな一人であるジョーは、パートナーのマディ、知能増進犬のボブとともに、何とか、農畜により、日々の暮らしを立てています。

 そこに現れたのが、複数の人間が群体となって巨大化した「ファーム」。

 この「ファーム」は、地球からの脱出を目指しており、ジョーの了解も得ず、農園の樹々をハックし、セルロースを硝化させて、木星への旅行の燃料に使おうと勝手なことを始めます。

 あまつさえ、マディがジョーの知らないうちに、このファームと話し込んでいると言います。
 ようやく手に入れた暮らしを脅かされることとなったジョーは、意を決して、非常手段に出るのですが・・・。

 アイデアをふんだんにちりばめながら、テンポよく、「乾いた」筆致でストーリーが進んでいきます。

 スターリングのように、テクノロジーを嬉々として取り込んでいますが、ハードなものはないので、「文系」でもとっつきにくいことはないと思います。

 「ファーム」の異形さはもちろんのこと、ただようグロテスクさがこの作品の持ち味ですが、不思議と妙なノスタルジーを感じさせるのが一味違ったテイストを感じさせます。

 ノスタルジーを感じさせる一つは、田舎の暮らしが描かれていることでしょう。
 実際には、なかなか実行に移すことは難しいのが現実とは思いますが、あこがれはありますし、テクノロジーの利器を必要に応じて使えるのであれば、なおさらですよね。

 廃村に移り住み、野菜をつくり、ニワトリを飼い、ある程度の自給自足を確保しつつ、太陽光発電により、電気器具やEVを動かし、ネットで仕事を行っている若い人の姿をユーチューブでも見ることができますが、このようなライフスタイルを指向する方も、それなりに増えてくるのではないのかなと。

 もう一つは、自由、束縛からの解放、自然回帰という、1960年代のムーブメントを思い起こさせるところです。

 「マディ」の行動、「ファーム」の姿は、まさにそうですよね。ストロスは、1964年生まれなので、ダイレクトではないかもしれませんが、その時代への思いを結構持っているのかもしれませんね。話は飛びますが、「ファーム」が出てきたところで、かつて見た映画「ソサエティ」を思い出しました。

 ところで、マディにかかる顛末は、他の作品であれば、アイデンティティがどうのこうのとのウェットな展開になるであろうものが、感傷的なものは切り離されて単純明快に処理されるところが特徴的です。あえて、こうすることで、インパクトを与えているのでしょうけどね。

 それと比べると、ジョーと犬のボブとの関係性というか、友情は、さらりと描かれていますが、作者の思い入れを感じますね。犬好きの読者であれば、より響くのではないでしょうか。