もうひとつのクリスマス・キャロル~コニー・ウィリス③

 ハリッジズの書籍売り場に勤めるグレイは,クリスマスを前に,てんてこ舞いの忙しさです。

 さらに,クリスマス・イヴには,ベストセラーの作家を迎えてのサイン会まで開かれ,目の回るような有様です。

 離婚しているグレイにとって,この日は,娘ジェマと過ごすことのできる大切な日なんですが,別れた奥さんとその新しい連れ合いの都合で,親子水入らずのひと時がつぶされることになってしまいます。

 すっかり意気消沈してしまったグレイなのですが…。


 「クリスマス・キャロル」の聖霊たちを登場させて,彼らの導きなど屁とも思わなくなってしまっているご時勢を皮肉りながら,ささやかな祝福もちゃんと用意してあるという,軽妙でほろりとさせる,さすがのウィリスさんならではの洒落たクリスマス・ストーリーです。

 スクルージを改心させた聖霊も,ベスト・セラー『楽してがっぽり金儲け』の作者サー・スペンサーには全く通用しません。

 「金がすべてではない,という人がいます」サー・スペンサーは居並ぶ客に向かって言った。「そのとおり,すべてではありません。金は唯一絶対のものです」客はいっせいに拍手した。

 ここらへんのコミカルさがこの作品の味となっています。

 また,娘ジェマの茶目っ気とけなげさは,実に可愛らしい。グレイを思いやる優しい心までもっていて,ほんとにいい娘です。

 

 対して,奥さんの描かれ方はやや厳しいかな。中途半端なきれいごとでは済まさないウィリスさんのシビアさを垣間見るところでもあります。

 結局,ジェマと過ごせなかったクリスマス・イヴを,グレイは,3人の聖霊たちと過ごすことになります。

 ラストはどう解釈するのでしょう。
 私は,グレイの,ジェマを失うことになったことに対しての後悔と未来への不安が,ジェマのしっかりとした成長によって癒されていくだろうという希望を表していると思いました。

 「これでも,ささやかな成果があったんだぞ」という聖霊の言葉は,本当だったのでしょう。

 それでは,

 「クリスマスに乾杯」

 <来るべきクリスマスの聖霊>の声は,ひとことごとに力強さを増した。

 「わたしたちみんなに,神の祝福がありますように」