通称名クネート氏は,異星から地球に派遣された調査員です。
長期滞在者の多いホテル住まいをしながら情報収集活動にいそしみ,10年ほど経過しています。
母星と比較して倍の重力に耐えつつ,分厚いカモフラージュ用の「肉の皮」をかぶる窮屈な日々であるが,使命感ゆえかそれなりに自己満足している節がないこともないのが奇妙であります。
そんなクネート氏の前に、好ましからぬ女性の友人?エリザベスが現れます。
自称「詩人」で,自作の詩集を携えて,クネート氏に詩を読み聞かせにやってくるだけでも相当鬱陶しい存在であるうえに,「普遍の愛を分かち合おう」,「孤独の殻を打ち破ろう」と,善意にあふれたお節介を繰り返します。
耐えられなくなったクネート氏,炎暑にぼーっとしたこともあり,執拗に迫るエリザベスに,自制心を失い,ついに禁制を破り,外皮を破って,自らの黒光りする甲殻類のごとき正体をさらけ出してしまうのであります。
この作品,「SFマガジン」の1970年代SF特集で掲載されたものでありますが,エリザベスの姿は,いかにもサイケなヒッピー風で時代を感じて面白いです。
エリザベスのことを持て余すクネート氏の困惑ぶりは実に笑えてしまいます。
ついに,キレてしまい,母星からいかなる処分を受けることになろうとも,エリザベスさえ追っ払うことができたらという思いで破れかぶれの行動に出たクネート氏。
「見るんだ,エリザベス。わたしを見ろ。これがわたしだ。わたしを見て,ぶっとびたまえ。現実からのトリップだ」
エリザベスは悲鳴をあげて逃げ去るかと思いきや,すぐさまショックから立ち直り,これこそ,姿かたちにとらわれない真実の愛を実践できると満面の笑みを浮かべる始末。
軽妙なブラックさとシニカルさと,すれ違いのユーモアがうまくマッチしている楽しい作品であります。
題材としてはホラー系なんですが,こういう料理の仕方もあるんですね。
クネート氏の方に,親近感を覚えてしまうのも作者の計算でしょう。
訳は中村融氏,話し言葉の使い方がうまい。いい雰囲気出しています。
