幅が四百メートル弱,奥行が四百メートルきっかりの閉ざされた区画に送り込まれるマーティンとイヴォンヌ。
彼らは,人工羊膜のなかで受胎し,成長し,六歳になるまで成育し,いま,被験者として,この,こしらえものの環境の中で,“クロノン”という加齢科学物質を投与された。
実験の目的とは,
もし人が年齢を重ねるにつれ活動が活発になる死の動因を取り除いたら,年齢そのものは障壁になるだろうか?九十余年のかなたにわれわれの気づいていないなにか,なんらかの形態,なんらかの存在があるのではないだろうか?
「ミサゴの森」で名の知れたロバート・ホールドストックの大変に気味の悪い作品であります。
もともと,こんな人体実験を行うこと自体が,モラル面から問題があるのは当然のこととして,狂信的なプロジェクトの主任科学者もしかり,イヴォンヌに屈折した愛情を持つようになる主人公もしかり,登場人物もろくでもない連中ばかり。
マーティンとイヴォンヌの老醜の様も無残なものだ。
無気力になり,虚弱になり,静かにただ年をとっていく。
ところが作者はこれで終わらせないんですよね。
彼らが200歳を超える頃からの異様な変化がえげつない。
ほんと,不気味で醜悪な姿になり,あまつさえ,性的能力を取り戻し,性交にふけるという胸の悪くなるような展開。
でも,主任科学者は言う。
われわれは変態(メタモルフォセス)のはじまりを目撃しているんだ。
かくのごとき,実に趣味の悪いお話であります。
ラストも,「もうええわ」というようなえげつなさです。
これは,もうホラーといってもよいかもしれません。
これだけやな話を引っ張っていけるのも,作者の才能といってもよいのでしょう。
好き嫌いはともかくも,インパクトのある作品です。
「SFマガジン」1992年6月号掲載。