性器および/またはミスター・モリスン~キャロル・エムシュウィラー②

 想像してもみてよ、あのとんでもなく太い脚がズボンにすべりこむところを。あの神さまみたいに太い(だって、ただの人間の脚が、あんなに太いわけないでしょう?)、トール神の脚かと思うほど太い脚が、ほら穴みたいに大きなズボンの穴にすべりこむところを。
 想像してもみて、薄い小麦色の毛がまばらにはえたゾウの脚みたいな極太の脚が、きのうからずっとしけったままの、腰ほども太い茶色のウールの筒にすべりこんでいくところを。うんとこしょ。どっこいしょ。


 主人公である中高年の女性は、同じアパートメントに住む、超肥大漢のモリスン氏に興味を抱き、あろうことか、モリソン氏の部屋に忍び込み、彼がいったい何者であるかを確かめようとします。

 設定からして、異様であるうえに、モリスン氏の肥大した体から、そして彼が身に着けていた衣類や靴下などから発散される「瘴気」に没入するなど、主人公の、倒錯的で、背徳的な「肌感覚」が、全編にみなぎっており、むず痒いような、落ち着かない気持ちにさせてくれます。

 そして、生物として、本質的な器官であるものの、誰もが、衣服で覆い、隠している「性器」。主人公は、モリスン氏の肥大した体と、それを包む服に隠された「性器」は、どのような形状なのかを探ろうとします。このような突飛な行動をとった主人公は、モリスン氏と目を合わすことになりますが、モリスン氏の、すべてを理解しているような、そうでないような態度も何とも形容しがたいものです。

 主人公は、「性器」は見せないものの、行動により、自分というものの本質を隠さず、さらけ出しており、モリスン氏の隠された本質に迫り、分かり合いたいとしているのでしょうか。

 「いったい、何の話だ」と、生理的に受け付けない人も多かろうと思う、なかなかに挑戦的な短編であります。
 だけど、幻想味も加わることで、嫌悪感を和らげ、危なっかしい際をたどりつつ、妙に感情をくすぐる、摩訶不思議な感覚は、この作者の持ち味でしょう。

 SF的、あるいはホラー的な読み方としては、モリスン氏は、地球外生命体なんじゃないかと。そして、そういう存在への性的衝動を感じるという、隠れた業を描いたものであると。ただ、こんな狭い設定にとどめておく作品ではないと思います。「ジェンダー」に関わる問題についても、示唆されています。

 3年前、「危険なヴィジョン」全3巻が発行されるということで、喜んでおりましたが、このようにインパクトのある作品が時を経て、あらためて紹介されてよかったなと思います。

 エムシュウィラーの名作「順応性」小尾芙佐訳を髣髴とさせるような、酒井昭伸氏の訳も、遊び心も感じてよかったです。