田園の女王~R.A.ラファティ③

 チャールズ・アーチャーは,受け継いだ巨額の遺産を黎明期の自動車事業あるいは鉄道事業に投資するかを各界の有識者に尋ねます。

 彼らは,事業としての将来性だけでなく,人間社会におけるモラルの維持の観点からも,口をそろえてアドバイスします。

 「ローカル線に投資するんだね。それが未来の花形だ。もしそうなりゃなけりゃ,そんな未来はぞっとするほど恐ろしい。」

 
 ラファティおじさんのちょっと毛色の変わった改変世界ものです。

 この作品には,ラファティさんの価値観がよく現れており興味深いものがあります。

 この世界では,小規模なローカル鉄道(チンチン電車に近いものらしいですが)が,全国を網の目のように広がって連結しており,まさに輸送の首座を占めています。

 自動車は完全禁止。

 とはいっても,いつの世にも跳ね返り者がいて,密造酒ならぬ密造車を造る者もいれば,覚悟を決めて乗り回す連中もいる。ただし,見つかったら厳罰(現行犯では危険行為により射殺だってありうる)に処せられるのにね。

 ラファティさんは,昔の「大家族制」における秩序なり,モラルなり,家族愛なりの「古き良き」部分を前面に押し出してこられます。

 クルマがその崩壊の元凶であったという,実にきっぱりとした主張でありますが,まあ,ガチガチの保守ととられかねませんけれども。

 それはともかくも,排気ガスから無縁(無煙?)の世界,都会への過度の人口集中が抑制され,郊外に散村的集落が短在する,四季折々の風情が楽しめる美しくのどかな田園風景の広がる世界は,やっぱりほっと癒されます。まさに,スロー・ライフであります。

 ところで,原題は,「Interurban Queen」,まさに邦題どおり,田園の女王でありまして,郊外をゆったり走るチンチン電車のことを指しているのでしょうか。