フェンダーに鈎針を溶接したクーペが,あたかも悪夢の鼻面のごとく,曲り角からぬっと出現した。その通り道にいた娘が凍りついたように立ちすくんだ。マスクに隠された顔も恐怖にこわばっていたに違いない。
第三次世界大戦の名残を残すニューヨークを訪れたイギリス人の主人公は,交差点で、この禍々しい車から間一髪娘を救います。
彼女の懇請により,アパートを訪ねることとなった主人公は,彼女とともに夜の繁華街へと出かけることになるのですが…。
作品の原題は,Coming Attraction。水鏡子先生によりますと,映画の次回上映作の案内のことを言うそうでありますが,Coming⇒「グッとくる」、Attraction⇒「魅力」とのことで、このようなタイトルになったとか。
核戦争の傷跡が残りながらも,まだ,米ソは覇権を争い,月面基地の誘導弾配備を性懲りもなく進めているという,どんよりとした不安におおわれた世界が背景となっています。
エンパイヤステートビルの残骸が見える,インフェルノと呼ばれる被爆地帯から放射能の瘴気が立ち昇っている。
ニューヨークの繁華街も一応の賑わいは取り戻しているものの,どことなく歪んだ心地悪さがあります。
女性のトレンドは,顔の全く見えないマスクをつけること。
女性が広告宣伝に出ることはご法度となり,アルファベット文字で性的イメージを表している隠微さ。
さらに,男女のレスリングが最も人気のあるスポーツとなっています。
表面上の道徳を装いながら,抑圧されているいやらしさがじめっと重苦しく感じられるような不健全な雰囲気が漂います。
「今日の午後のあなたはすばらしかったわ」娘の頬の形そのままの柔らかなベルベットのマスクがわたしの頬に押しつけられる。マスクのレースごしに娘の濡れた温かい舌先がわたしの顎に触れた。
こういう何ともいえないエロチックさがいいですね。
当時の世相を反映しているのはもちろんですが,現在のテロの不安を先取りしているといってもおかしくない陰鬱さであります(マスクで顔を隠すのが流行というのも符合しますしねえ)。
ラスト,主人公が娘のマスクをひっぱがしたときに,その表情に見たもの,それこそライバーの描こうとした「嫌なもの」が凝縮された象徴であったのでしょう。
それにしても,タイトルの意味は何なのでしょう。

