無名のまま,貧窮の中で亡くなった伝説の画家,ファン・ドールン。
彼の創造した肖像画や風景画は,従来の絵とはあまりにもかけはなれており,あまりにも革新的であった。
そのため,彼の生きた時代の人々,評論家にさえ認められず,その挫折がノイローゼを生み出し,自らを傷つけるに至る。
死後,30年を経て,彼の天才は認められた。
これは,とおり一辺のファン・ドールンの“伝記”であるが,彼の絵の真の秘密に迫ろうとする人間には,驚くべき事実と恐怖が襲い来るのであります。
主人公の友人である,美術史専攻の駆け出しの評論家であるマイヤーズは,ファン・ドールンの絵の持つ「何か」を探るために,ファン・ドールンの全てを追体験しようとする。
一年後,マイヤーズは,主人公を,メトロポリタン美術館に呼び出す。そして,ファン・ドールンの絵に隠された秘密,絵に蠢く群れが眼前に現れてくるのである。
秘密を発見したマイヤーズは,ファン・ドールンの天才が爆発した,南仏のラ・ヴェルジュを訪れる。
深入りしたマイヤーズの非業の死。
その知らせを受け,その地へやってきた主人公…。
これは,読ませる作品です。
ファン・ドールンの絵は,ゴッホを連想させるため,なかなかリアルな印象をもって迫ってきます。
漂うただならぬ狂気を追い求めるマイヤーズ,そして主人公の姿には,触れてはならないものに強烈に魅かれてしまう,あの破滅の甘美さを感じます。
ファン・ドールンについて,“皮相的”解釈に安住している,いわゆる主流派の美術界の連中への痛烈な視点,天賦の才を有しない主人公の“天才”への複雑な思い,これらの要素が下支えをしており,しっかりとした「肉厚」の作品に仕上がっていると思います。
ファン・ドールンの絵が,「印象」ではなく,「具象」であったことの理由は,読み手により,やや評価が分かれるところであると思いますが,ラストの展開は意表をつき,非常に鮮やかなラストとなっています。
1989年ブラム・ストーカー賞ノヴェレット部門受賞作。
新潮文庫「ナイト・フライヤー」収録。
作者のデイヴィッド・マレルは,あのランボーの原作の作者だそうであるが,この短編は,映画からは想像もつきません。
この作品が収録された短編集も邦訳されています。

