何でもない、いつもどおりの朝の食卓を囲んでいたティム一家。
その場へ、ドアを蹴破り、ものものしい雰囲気の兵士たちが踏み込んできます。
驚くティムですが、兵士たちは、家族が平穏にいっしょに暮らしていること、コーヒーを飲み、豊かな食事をし、冷蔵庫やバンケットには食材がたっぷりと詰まっていること、兵士たちが生きる荒廃した世界からは考えられないティムたちの姿に仰天します。
尋問を受けたティムは、ここは8年後の1980年であることを知ります。
核戦争勃発後も、米ソ間の戦争は止むことなく、生き残った人々は地下に潜り、厳しい国家統制のもと、家族は解体され、大人と子供、性別ごとに峻別された各センターに収容され、すべてが戦時体制を維持することを目的にした「総動員」体制が強制されています。
ソ連はアメリカ本土に、高性能爆弾の製造から攻撃までをオートメーション化した前線を徐々に侵攻させており、その波状攻撃によって、ちょうどティムの家のある場所に強烈なエネルギーが集中したことによって、時空の歪みが生じ、過去から巻き込まれてしまったようなのです。
この未来の世界に残って生き延びる道を選ぶのか、死を覚悟して、今夕から始まる再攻撃に伴う時空変動による帰還のチャンスに賭けるのか、ティムは選択を迫られます。
今となれば、この手のストーリーはすっかりおなじみのものとなっているため、「素朴」な短編として読まれるのではないかと思いますが、初読のときには、ぐっと引き込まれた作品です。
核戦争の恐怖とマッカーシズムの吹き荒れた時代背景を考えると、発表当時(1954年)は一層身近に感じられたことと想像できます。
私にとって、この作品が印象深いのは、楳図かずお氏の傑作「漂流教室」(1972~1974年「週刊少年サンデー」掲載)を思い起こすからです。
私が小学生だったころ、少年サンデーを立ち読みして、「漂流教室」に出会ったのですが、子ども心に大変な衝撃を受け、毎週、待ちきれない思いで、ページをめくったことを思い出します。
楳図かずお氏は、壮大なテーマに臆せず取り組んできた尊敬すべきチャレンジャーですが、私は、中でも「漂流教室」が最後までテンションを保ち続けた稀有の作品であり、代表作だと思います。
環境破壊への警告と、後世への責任についての問題提起をベースに、持ち味である、おどろおどろしく、グロテスクなタッチで、異形の世界を迫力をもって描き、主人公の母親の狂気にも近い母性愛、未来を変えるべく生徒たちに現在へと送り出される幼いユウちゃんのけなげな雄々しさがあいまった、異様に美しいラストへと収斂していきます。当時のどの少年漫画からも傑出した孤高の名作だと思っています。
楳図氏も、どこかで、この作品を読んで、インスピレーションを得たのかなと。
もちろん、天才、楳図氏は、オリジナリティにこだわり、他のSF作品などは読まないということらしいので、空想に過ぎませんが。
「薄明の朝食」は、当初、ハヤカワ文庫NVの短編集「地図にない町」に収録され、その後、SF文庫の短編集にも何度も掲載されています。
SF文庫では、浅倉久志氏の翻訳に変わっており、それは信頼できることでありがたいのですが、タイトルが「たそがれの朝食」になっています。
twilightの訳し方でしょうが、私としては、もとの「薄明」の方が、夜明け前という希望を含んでいるようで、よさげな感じがするのですが。
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