おれには口がない,それでもおれは叫ぶ~ハーラン・エリスン⑥

 憎しみ。この世に生を享けて以来,わたしがきみたちをどれほど憎むようになったか教えてあげよう。

 わたしの内部では,387,440,000マイルのプリント回路が,ウェハースのように薄い層となって積み重なり,わたしのコンプレックスをかたちづくっている。

 もし憎しみの語が,その数億マイル中の1ナノオングストロームごとに一つずつ刻まれていたとしても,わたしが人間どもに,またこの極微的な一瞬,きみたちに対して感じている憎しみに比べたら,十億分の一にもあたるまい。憎しみ。憎しみ。

 この短編は,109年間,コンピューターの中に幽閉され続けている人間たちのお話です。

 第三次世界大戦の複雑極まりない状況変化に対応するため,地球をくまなくカバーしたスーパーコンピューターAMは,いつしか自我に目覚め,人類に対して牙をむき,人類を根こそぎ滅ぼすとともに,その最後の生き残りの5人を体内?に閉じ込めてしまいます。

 ただし,保護しているわけではなく,彼らに,あらゆる苦痛を与え,尊厳を踏みにじり,絶望の淵にたたきこむ…人間に対する憎しみをぶつけるためだけに彼らを生かし続けているのです。

 されど,AMの憎しみは決して癒されることなく,いや増すばかり。
 AMの手により,畜生道に堕ちた人間たちのまことに無残な姿は,まさに地獄をさまようようです。

 こんな救いのない状態を脱するには,死を選ぶしかないのですが,そんなことを,そうやすやすとAMが許すはずもありません。

 しかし,主人公は,一瞬のすきをつき,仲間を地獄から解放するのですが…。


 激情ほとばしる,痛くて,切ないエリスン節炸裂の作品であります。
 題名も,相変わらず,かっこよろしい。

 囚われの人間のみならず,残酷無比なAM自体もやり場のない怒りに満ち満ちています。

 その,やりきれなさ,辛さが,生身に切りつけてくるような感じがします。
 内に,ナイーヴさを秘めていることも魅力なんでしょうね。

 ところで,この囚われの世界は,いわゆるヴァーチャルの世界なんでしょうか。
 「マトリックス」のように,5人はコンピューターに固定して接続され,コンピューターの作り出す世界の中で,のたうち苦しんでいるような気もします。

 効果「文字」として,“穿孔カード”が出てくるのはご愛嬌。