隣家に住む男チャールズ・クルージが,顔をキーボードにくっつけて,側頭部を吹き飛ばされて死んでいるのを主人公が発見するところから始まる,かなり薄気味の悪い作品です。
このクルージという男は,ハッカーで,自らのデータを各機関のコンピューターから抹消し,存在しない男となっていたという設定です。
いろんな情報源にアクセスし,近所の人々の隠されたスキャンダルから国家機密まで探り,無から巨額のお金を生み出すことさえ,彼には可能だったのです。
クルージの死は,自殺か,他殺なのか。
国家機密の保持のために始末したというには,目立ちすぎる,いかにも粗いやり方です。
物語は,北朝鮮での洗脳体験という暗い過去を持つ主人公と,ポル・ポト政権下の地獄の日々から這い出た東洋人女性ハッカーのリサとの,過酷な過去を持つ者どうしの触れ合いを絡ませながら,ミステリ仕立てで進行していきます。
どうも,クルージは,無数のコンピューターが連結を重ねるうちに,脳細胞のネットワークと似た「意識」が発生するのではないかということに興味をもっていたらしいのだ。
物語の終盤,担当刑事,リサまでもが,悲惨な死を遂げます。
いずれも,クルージのコンピューター端末をたたいた後に。
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主人公は,端末をたたきませんでした。が,得体の知れない何かが忍び寄る恐怖に怯えています。
コンピューターに依存した社会への不安感と,コンピューターへの不信感をベースに,全体に,陰気で重苦しい雰囲気が漂っているのが,なかなかに素敵です。
コンピューターの「意識」について,ハード的に表現しているのではなく,情緒的に訴えているので,理系SFファンの方には物足りないともいえようが,私には,ちょうどよいかな。
1985年度ヒューゴー,ネビュラ,ローカスの三賞ノヴェラ部門を制覇。
ハヤカワSF文庫「ブルー・シャンペン」に収録。

