7月19日のその夜,メイン州西部の全域がかつてない激しい嵐に見舞われた後,濃霧が町を覆いつくします。
誰も経験したことがない忌まわしい濃霧。
霧の中から,何か得体の知れないものが,人々を狩りはじめます…。
スティーヴン・キング。
いわずと知れたホラーの帝王のこの作品も実に見事です。
この世のものとも思えない不気味な怪物に襲われる恐怖をリアルに描きながら,すべてが幻想ではないかという感覚に陥らせる,それこそ濃霧のような雰囲気が楽しめます。
蛸足のような触手,大蜘蛛…,一見子供だましのような異形の怪物が,人々を襲い、悲惨で呆気ない死をもたらします。その光景が実写を見るかのごとく,リアルに描き出されますが、この惨劇はあまりにもシュールで,まがまがしい悪夢を見ているようです。
このような異形の怪物を登場させると,えてして興ざめすることがよくありますが,うまくさばかれているのはさすがです。生理的嫌悪感をもたらす造形と表現がほんとにうまいですね。
信じがたい事態に際して,無意味な虚勢を張る若者,現実を信じようとしない男,宿命論を喚く老婆など,あるべき人物をしっかり配置したうえで,ショッピングセンターを砦とした攻防と脱出が,霧という効果満点の舞台装置のもとで繰り広げられます。
ラスト近く,途方もない怪物が登場しますが,もはや,「神」の領域に近いような存在であり,呆然としてしまうばかりです。
それも遺伝子操作の産物だとしたら,ほんとに天罰をくだされたのかも知れないですね。
ラジオも空電のみ。
濃霧は,すでに,広い範囲に拡大し,取り返しのつかない状況に陥りつつあるのかもしれません。
ラストは,やや微妙な終わり方。
希望をもたせているのか,あるいは,そう思わないと狂ってしまいそうで、希望にすがりつきたいという気持ちがなせる空耳に過ぎないのか。
約200ページの中篇ですが,中だるみもなく締まっており,量が多すぎて疲れることもない頃合の作品だと思います。
扶桑社ミステリー「骸骨乗務員」収録。
ちなみに,最近ハヤカワから復刊された「闇の展覧会」の収録版とは,結末がやや違うそうであるので,読み比べてみるのも一興でしょう。

