「人間はあっさりとは死ねない。死ぬのも規則ずくめだ。おれが九人の仲間と軍の結核病棟にいるのもそんなわけ。死ぬための基本訓練をうけてる初年兵ってところさ。」
重症の結核患者たちの心の拠り所ともなっている,お猿さんみたいな不思議な「幽体」にまつわるお話。
彼らは,それを“ケーシー"と名づけています。
彼らの言うことには,半分,あっちの世界にいってしまっているから,ケイシーを見ることができるのだといいます。
茶目っ気たっぷりのケーシーは,規則ずくめの医長や婦長をからかい,優しい看護婦のメアリの恋の後押しをしたり,患者たちの慰めとなる,かけがえのない存在でした。
「流し込み」という渾名の患者が喀血を繰り返し,死への最後の抵抗を行っていたとき,どこからともなく現れ,「流し込み」に覆いかぶさろうとする黒い闇を,ケーシーは身を挺して阻止しようとするが,ついには,押しつぶされてしまいます。
その後,しばらく姿を消していたケーシーが,再び,病室に現れたとき…。
作者のリチャード・マッケナは,映画でもお馴染みの「砲艦サンパブロ」の作者であります。
寡作ながら質が高いという作家で,SF短編としては,本編と,ネビュラ賞を受賞した「秘密の遊び場」という作品が邦訳されています。
こういう作品を読むと,物書きの才能というものを感じます。
こういう風に書けたらなあ。
達観したような患者たちの会話は,ふざけ口調ながら,ひょうひょうとした物悲しさを漂わせています。
病室仲間のベッドが,がらんとあいたときの寂寞感。
しかし,彼らは,意外と冷静に,運命を受け入れているため,案外,じめじめしたところがありません。
…というより,そうしなきゃ,つらくてやりきれないということでしょう。
だからこそ,最後の一文が,心に響き,読者も泣けてくるんじゃないのかなあ。
ほんと,素晴らしい作品です。
SFなのかといわれると、…ではありますが。
創元SF文庫「SF ベスト・オブ・ザ・ベスト」上巻収録。

