闇と夜明けのあいだ~アルジス・バドリス①

 荒れ狂う嵐と咆哮する野獣。

 分厚い外壁で囲まれたドームの内側で,何世代にもわたって,宇宙船の乗組員の子孫が生き抜いてきました。

 過酷な環境に適応するため,彼らは,形質を変化させ,鉤爪を有する獣人のような姿へと変貌していたのです。

 野獣どものやむことなき侵攻が続く中,彼らは,子供を,この惑星の環境に完全に適応できるようにするため,隔離した養育区画で成長させていました。

 指導者のブレンダンは,このプロジェクトを推し進めるため,専制を敷き,人々の不満は爆発寸前となっていたのです。

 そして,子供たちが,ドームの外へと解き放たれる時がやってきます…。


 まことに,荒々しく,情動がうねるような作品です。

 こんな苛酷な状況では,強烈なリーダーシップで生き残りの道へと突き進む以外にないこともわかるが,それは,決して,明るく楽しいものではありません。

 ブレンダンと妻との間も,厳しい現実を前にして,実にひねくれた愛情表現しかできなくなっています。

 子供たちは,原大気を呼吸し,野獣を屠り,この惑星で生き延びる能力を手に入れたのですが、すでに,人間とは異なる存在となってしまっていました。

 野獣を滅ぼした後,彼らは,次の標的をドームに向けるのかもしれません。

 なんという,陰気で,不快で,かつ圧倒的な作品なんでしょう。
 まったくもって“素直でないところ”が,この作品の魅力といえます。


 アルジス・バドリスの短編は,「めぐりあい」,「隠れ家」,「ただ愛のために」等々,暗い迫力を持つすぐれものが邦訳されているが,大半が入手困難な状況となっています。 全体に,後味のよくない作品が多いので,人気薄なのは,ある面仕方がないかも。

 長編「無頼の月」は,月面上にある,侵入するものを抹殺する異星人の建物にテレパシーによる遠隔操作により入り込もうという話で,操作者は,殺されることに精神的に耐えられる自殺狂の男が選ばれるという,なかなか興味をそそられる設定のようなのですだが,かつて,「SFマガジン」に分載されたきりで,単行本にまとめられていないという、幻の名作と言われています。一度,読んでみたいものです。

 もう一つの長編が、その昔、朝日ソノラマ文庫で、「アメリカ鉄仮面」(原題"Who?")という、バドリスさんが泣きそうな邦題で刊行されましたが、2022年になって、国書刊行会の「奇想天外の本棚シリーズ」の一つとして、「誰?」との邦題で復活しています。

 読書通人のための「都市伝説的」作品が揃うシリーズということで、食指が動きますね。

 「闇と夜明けのあいだ」は、新潮文庫「スターシップー―宇宙SFコレクション②」収録。