筒井康隆編集の現代恐怖小説アンソロジー「異形の白昼」の中の一編です。
筒井氏が,不朽の名作と称える作品であり,大いに期待して読んだのですが,激賞に違わぬ名品でした。
舞台は,霧深い北国の首都(ロンドン)。
石造りの家に寒々しく暮らす,主人公の石山とその7歳の息子の光之。
この地の気候,街の雰囲気,光之がやってきた事情…。
何もかも,憂愁を帯び,重苦しい雰囲気に満ちています。
それから逃れたいばかりに,罪悪感を持ちながらも,毎夜のごとく,息子を一人きりにして外出する主人公。
ぽつんと一人,「カチカチ山」の絵本を読みふける息子。
哀れで,悲しく,つらく,何ともやりきれなくなるお話です。
この“負の”インパクトは強烈。
暗い余韻は,いつまでも心に残り続けると思います。
恐怖をあおろうとする作品で、猟奇的・変質者的な要素が前に出る場合には、インパクトを維持するために,どんどんエスカレートせざるをえず,その手の作品は,時間が経つとどうしても色褪せた感が否めないのに対して,この作品には,小手先のテクニックとは違う、古びないものが確かにあります。
この悲痛な怖さをぜひとも味わって下さい。
他の作品では,筒井康隆の「母子像」と宇能鴻一郎の「甘美な牢獄」がよかったですね。
特に,宇能鴻一郎には,官能作家というレッテルが貼られているが,この作品の背徳に堕ちる快楽の妖美に,独特の凄みがあって,恐れいりました。
