錫の兵隊~ジョーン.D.ヴィンジ①

 外宇宙を翔ける飛行士の娘ブランディと,飛行士たちの立ち寄る酒場のマスター兼バーテンダーの男マリスとの哀切たる恋物語を描く,ジョーン.D.ヴィンジの出世作

 マリスは,故郷の星での戦闘により,なかばサイボーグ化されており,このため,老化の進行が遅く,亜光速で航行する飛行士たちの,いわゆるウラシマ効果による年月の経過にもたえ,昔のままの姿を保てるがゆえに,彼女らの拠り所となる存在であったのである。

 なぜ,宇宙飛行士が女性なのか?

 男性が肉体的に宇宙飛行士に適していないということになって,そうして女性がこの重要な分野を独占し,新しい支配者の地位におさまると,地球の文化基盤は極度の緊張をたえしのぶことになった。

 地上に縛り付けられた男性たちは,惑星によっては,存在の誇示のため戦闘に明け暮れることにさえなった。

 マリスは,そんな惑星から逃れてきたのである。

 18歳のブランディとの最初の出会いから,4度の逢瀬。
 その間にマリスには100年が経過し,ブランディは27歳となる。
 
 次なるブランディの帰還を待つうち,彼女の乗る宇宙船の事故により,彼女が死亡したという噂が…


 一般的には,男の帰還を待つ女の図というのが,この作品では全く逆転した設定となっています。

 そして,新しい世界への扉を閉ざされた者たちの閉塞感と苛立ち。

 それを達観したかのように,愛する女性が戻ってくるのを,25年もの間待ち続けるマリス。

 とりわけ,ブランディが再び宇宙へと旅立てない姿となって戻ってきたときのマリスは,女性的というか母性的な存在にさえ思えてきます。
 
 このような逆転の“視点”に対して,それが必然性を帯びるように,背景を丁寧に描いているところが,細やかです。 


 本音を言えば,もともとラブストーリーが好きではないうえに,このように少々座り心地の悪い設定であるので,素直に物語に溶け込むことができなかったというところはありますね。

 ところで,オールディスの「キャベツの代価」という,実に皮肉な作品では,ウラシマ効果で夫と相対的に年をとる妻の不安,不満,猜疑をえげつなく描いており,このインパクトの強さは相当なものがあり,個人的には,こちらの方が好みですね。