クリスマスSF:「道」~シイベリイ・クイン

 剣闘士としての年季を明け,北欧への帰郷の旅に出たクラウス。

 無骨一徹で,勇者の誇りと真っ直ぐな心根を有する彼は,道すがら,ナザレからエジプトへと向かう幼子を,無慈悲なヘロデ王の親衛隊の手から救います。
 その時,幼子から天の声が発せられます。

 彼が,幼い時代のなつかしい思い出を胸に抱く全ての人類によって称えられる愛の英雄となるであろうことを。

 時は流れ,クラウスは,ユダヤ総督ピラトの片腕たる百人隊長として,一人の若い男が,僧侶たちの奸計により,磔の刑に処せられるのに立ち会います。

 クラウスは,残忍な責め苦から,男を解放するため,慈悲の槍を打ち込む。
 再び聞こえる天の声。

 その導きに従い,よき伴侶ウナをかたわらに,クラウスは,ローマ帝国の終焉,コンスタンティヌス大王の偉業等,流れゆく歴史にも,その活力を失うことなく歩みを続けていきます。

 しかし,十字軍の殺戮と狂態に抗議した彼らは,僧侶たちの迫害を逃れ,長い旅を続けることとなります。

 ある年のクリスマス,彼らは,ライン川沿いの小さな町に仮小屋を建ててすごしていました。
 旱魃のため,主の生誕日を祝う気力さえなくした町の人々。

 ウナは,クラウスに,木彫りのおもちゃのそりを沢山つくり,贈物を届けることを提案します。

 翌朝,戸口におかれた小さなそりに積まれた果物とお菓子。
 子供たちの歓声と輝くばかりの笑顔。
 たまたま,前夜,吹雪の中を去るクラウスの赤いマントを目にした子供の言葉から,サンタ・クラウスの伝説が始まります。

 クラウスとウナは,同じような境遇にあった小人たちとともに,北方の何処かに居を構え,無数の贈物を作り出し,天を駆るトナカイとソリで,子供たちのもとへと送り届け始めるのでした。

 彼はもう,百人隊長クラウディウスでもなければ,北方の戦士クラウスでもない。幼子を守護する慈愛深い聖者となったのです。


 いや,クリスマス・イヴに,暖炉の前で語るにふさわしいような,実にいいお話であります。

 伝奇ロマンともいうべき,心温まるファンタジーで,いくつものクリスマス・アンソロジーに収録されている定番でもあります。

 作者は,「ウィアード・テールズ」誌の重鎮の一人で,この作品も,同誌1938年12月号に載ったもの。

 翻訳は,団精二こと,荒俣宏氏。
 時代がかったセリフが違和感なく,かえっていい味を出しています。
 
 クラウスの妻への思いやりや,小人たちとの心の通い合いなど,読みどころもいっぱい。
 何よりも,クラウスの生一本の男らしさには,素直に感動してしまいます。
 
 「SFマガジン」1971年12月号掲載。