遺伝子研究の野心的大学教授のアルヴィン博士は,妻コリーとの間に,一粒種の息子ジョーをもうけた。
アルヴィンは,ジョーと妻とに惜しみない愛情を与えた…はずだったが,実際は,自らの価値観を押し付け,結果として,自らの書く“物語”に従うことしか許さなかったのであります。
ジョーはアルヴィンの不在のときの母コリーとの互いの“物語”の交流にのみ平安を覚えていました。
ジョーは極めて優秀な青年に育ちますが,表面上はともかく,アルヴィンとの断絶は修復しがたい状態となっております。
そんなある日,ジョーは,手すさびに,タロット・カード占いによる,心理分析のプログラムを作り出します。無作為にパソコンのキーをたたくだけで,その人の真実が読み取れる。それも驚異的な的中力なのです。
このプログラムを試したアルヴィンは,作為的な操作をし,そのこと自体がばれてしまいます。日をおいて,再度,今度は無作為に試してみましたところ,彼が,自覚しつつも,あえて目を塞いできたこと,つまり,ジョーの物語を認めなかったという事実が明らかにされます。
ジョーにどうすればよいかを問うアルヴィンに対して,ジョーは,ただほっておいてと望むのですが…。
一言で言えば,父子相克と母子密着の悲劇でありますが,えらい陰鬱な迫力のある作品であります。
自己顕示欲と虚栄心の強いおやじの声が強すぎて,自己のエリアを侵食され続けた息子が,最後にキレてしまうお話といえば,俗っぽすぎますかね。
話上手なカードさんだけに,アルヴィンおやじが,自覚しつつも,押し売りをやってしまう状況が,実に説得力をもってうっとうしく描かれております。
クライマックスで,『オイディプス』のエピソードにからめていくのは,やや強引かなとも思いますが。
私は,アルヴィンさんのような優秀なおやじでもなし,ましてや,自分の息子が自分を凌駕することに不安を覚えるようなことなどありませんが,“黙る”ことをしらないアルヴィンおやじが,ジョーを追い詰めていってしまう終章は,「ああもうわかっとらんな」と歯がゆく感じますとともに,うーんと考えるところもありました。
日頃,がみがみとうるさく,高圧的に子どもに接してしまうことや,子どもを理解しているかのようで全く的違いのことをしてしまっているのではないかということを思わず反省してしまいましたなね。
「SFマガジン」1989年5月号掲載。
