ソヴィエトの破壊工作により,アポロ11号のアームストロング船長とオルドリンが月面で死亡するという大事件をきっかけに,両大国の相互不信の高まりと報復の連鎖がはじまります。
そして米国の覇権が成立したかにみえましたが,第三世界の局地紛争が頻発し,強力な核兵器による有無をいわせぬ解決と,とめどなき軍備増強という救いのない世界となっていきます。
この成れの果てのすがたを描く,実にペシミスティックな改変世界ものであります。
レーガン大統領が5期目を務め,アルツハイマーの進行する大統領の影でリチャード・ニクソンが実権を奮い,ルメイ将軍が軍事を担当する。
何とも,おどろおどろしいメンバーですね。
レーガンさんは,どうもこういうイメージで語られる方のようです。(バラードの「第三次世界大戦秘史」参照)
ソヴィエトをたたき,次に台頭してきた中国を壊滅させ,サダム・フセイン率いるアラブ連合のトルコ侵攻に対して,イラクを核攻撃する…。
それほど現実とかけ離れた展開ではないところが気になります。
バクスターは,「ネオコン」なんか怖気をふるうほど嫌いなんでしょう。
放射能に汚染された暗鬱たる世界で,米国は,その軍事的優位性を示すために,“サンディ・パンチ”と呼ばれる,惑星を破壊するほどのすさまじい威力を有する爆弾の、月での爆破実験を強行しようとする。
その実験の日,浜辺にて,老年にさしかかった主人公と旧ソヴィエトのソユーズの乗組員であったコズロフ大佐とが,微生物の胞子の入ったボックスを内蔵したミニ衛星の打ち上げを行う。
「サンディ・パンチ」の実験により,地球生物にとって壊滅的な影響が出ることを見越してのささやかな,なぐさみに近い行為なのである。
アポロ11号の事故が実はソヴィエトの陰謀ではなく偶発的な事故であったとしても,今更どうにもならない。
諦観あふれるラストは,人類の愚かしさを際立たせ,とりかえしのつかない顛末に虚しさと憤りさえ感じさせます。
それにしても,現実より悪くなる「改変もの」は珍しいですね。
河出書房文庫「20世紀SF~1990年代」に収録。
