血をわけた子供~オクテイヴィア・バトラー①

 ぼくたちは,この惑星の特別保護地域に住んでいる。先住種族のトゥリックと,ある種の協定を結んでいるのだ。

 トゥガトゥワは,トゥリックの政府の特別保護地域の担当で,ぼくたちの家に出入りする特別の存在なのである。

 トゥリックは,卵生であるが,いわゆる「寄生バチ」のような生態をとる。つまり,大型動物の体内に卵を産みこみ,孵化した幼生は,その宿主の体を食いながら成長していくのである。

 ぼくたちの先祖が,この惑星に入植した後,トゥリックは,ぼくたちを保護する代わりに,宿主としての役割を求めたのである。

 女性は,宿主を増やす役割を求められたため,宿主となるのは,基本的に男性!の役目だったのである。

 もちろん,宿主は,孵化までの体貸しであり,幼生は,別の動物に移されることになっていたのだが。

 ぼくの母とトゥガトゥワとは,子供の誰か一人をトゥガトゥワの宿主とすることを約束しており,その日が近づきつつあった。

 ぼくがそうだということは,わかっていたが,ある日,宿主の男性が腹を切り裂かれ,幼生を取り出されるというショッキングな姿を目の当たりにし,ぼくの心は乱れる。

 逃れるためには,自殺するか,あるいは,トゥガトゥワを殺すことさえ考え,思い悩むのであるが…

 作者は,女性であり,黒人であり,SF作家であるという異色の存在。

 この作品も,女性の“出産”の役割,つまり,体内に“異物”を宿し,養い,出産するという行為を,しょせんは他人事ととらえる男性への強烈な問いかけとも感じられる。

 さらに,男性による保護との引き換えというかたちでの種族保存という,男女の生物学的役割といわれてきたものへの問いかけもありそうだ。
 
 ましてや,宿すものが,人の子ではなく,全く違う種族の子であるとなれば,“母性”とは何かということにも思いは及ぶ。

 また,人種の問題まで横たわっているのだ。
 トゥガトゥワの台詞。

 「あなた方の先祖は,同じ種族に殺されるか奴隷にされるしかなくなって母惑星から逃げてきた人たちだった―彼らはわたしたちのおかげで生きのびられたのよ。わたしたちは彼らを人として扱い,特別保護地域を与えた…」

 優れた設定と説得力ある展開であり,幾通りもの深読みが可能な作品である。

 1984年度ネビュラ賞,1985年度ヒューゴー賞ローカス賞ノヴェレット部門受賞作。

 トリプル・クラウンの作品としてふさわしい名作であることは、異論のないところでしょう。


 ハヤカワ文庫SF「80年代SF傑作選 下巻」収録。

 2022年、河出書房新社から「血を分けた子ども」が刊行されました。喜ばしいことです。