先日,わが子供たちが,「ケロロ軍曹」なるものを食い入るように見ておりまして,何がそこまで彼らを惹きつけるのかと覗いてみると,物質転送機のネタで,ケロロさんが,知らずにいっしょに入ってしまった“蚊”と融合してしまうという内容でありました。
子供たちに,「こいつは,有名な怪奇小説のパクリだ」と大人気なく言い放った私に,もとのお話はどんなのかという問いを受けまして,久々に,「蠅」を読み直しました。
あらためて,やはり,よくできた作品ですね。
まずもって,“蠅”という,融合したくない存在の上位にくるようなものをもってきておいて,そのうえ,猫とも…という,二重融合の気色悪さをたたみかけるところが味噌です。
ただし,確かに意表をつくグロテスクさなんだけれど,二重融合は,描く必要があったのだろうか。単純分離ができなくなるということを確定させるためのものだったのだろうか。そうなら,無理やり再転送をさせた奥さんが,少しかわいそうな気がします。
知性が薄れていっているだろう“本体”も何とも痛哀しい感じなのですが,ほんとに嫌なのは,“頭の白い蠅”であります。
これが,意識を持っているのかと考えるだに恐ろしい。
結末も至極当然なことながら,後味悪いですよねえ。
まあ,息子にハエタタキでつぶされるなんて話になると,シュールな世界に入ってしまいそうなのですが。
謎解き形式の進行になっているため,結末を読んでしまうと,初読のときの衝撃を味わえなくなるのはやむを得ません。
としても,十分に再読に耐え得る作品であります。
科学的根拠は薄くとも,会話がやや時代がかっていても,シチュエーションの鮮烈さと異様さは,褪せることがないと思います。
ところで、横光利一に、同じ「蠅」という題名の傑作短編がありますね。
ランジュランさんの「蠅」は、あの気持ち悪い蠅と同化してしまうという究極の不条理な肉体的恐怖を主に描きますが、横光さんの「蠅」では、惨劇に見舞われる馬車の馭者と乗客を超然と見下ろす蠅が、運命の不条理さを際立たせています。
全く毛色の違う作品ですが、どちらも、やりきれなく、どことなく背徳的な隠微さも漂う、いつまでも鮮明に記憶に残る名作です。
