第三次世界大戦秘史

 1995年1月27日,第三次世界大戦は,東部標準時午後6時47分に始まり,6時51分に人知れず終結したのである。

 1989年のレーガン大統領退任後,世界中に増大する憂慮すべき事態,たとえばエネルギー危機や民族問題の激化等は,あのレーガン時代の強烈なノスタルジアをかきたてていた。
 憲法修正により,1993年にレーガンは大統領三期目に就任したのである。

 しかし,もともと無能!ではないかと評されていた高齢の大統領は,もはや脳死状態にあるのではないかという疑いも少なからずあり,それを払拭するため,ホワイトハウスのスタッフは,大統領の健康状態を定期的に公表することとした。

 大統領の良好な健康状態に,政情不安を沈静化する効果を見出した連中は,次第に,米国民を大統領の医療情報の波にさらすようになるのである。

 こうして、レーガン大統領の身体・精神機能情報がリアルタイムでメディアを埋め尽くす異様な状況下,中央アジアでの紛争を発端とする米ソの緊張が高まっていた。

 核戦争の勃発か?

 しかしながら、交戦情報は断片に埋もれ,大統領の身体反応で、戦況の緊迫度を読み取るほかに全容はわからない。

 主人公以外の人々は,大統領のおびただしい医療情報に現を抜かしているため,誰一人気付く者すらいない…


 常軌を逸した報道をベースに,不気味なユーモアにあふれた展開が見事です。
 レーガン大統領のあの作り笑顔が鮮烈によみがえってきますね。

 これほど,世界最強の国の指導者をコケにした作品も珍しいでしょう。もちろん,レーガン大統領への個人攻撃を主題にした話ではないのですが,作者のレーガン大統領を見る目は極めて辛辣です。イメージが作り上げた大統領だと。

 ひるがえって,この間の総選挙。「郵政民営化!」の掛け声で,メディアを一色に塗りつぶし,大衆を引き付けたというか,本質から目を逸らさせたというか,いわゆる大衆操作は,似たようなものじゃなかったのだろうかねえ。

⇒時は経れども、変わらないというか、SNSが主役の一つに躍り出て、情報が氾濫する中で、よりこの物語の気味悪さがリアルにも感じます。


 J.G.バラードの短編集「第三次世界大戦秘史」(福武文庫)のタイトルナンバー。