確率神の祭壇~アドリアン・ロゴズ

 いまの道路交通事情で二台の<流星>がぶつかるということは十年に一回しか起こらない。一台の<流星>が数秒の間にほかの二台に接触するということは百年に一回だろう。その同じ車が次の瞬間に一台の航空機にぶつかる確率となると千年に一回しか起こりえない,しかもきみのカプセルのようにヘリの回転翼で切断されたというのは一万年に一回の奇蹟に相当する…

 ホーマーはバーバラとけんか別れをした後,ホバークラフト<流星>に乗り,スーパーハイウェイを時速970キロ超ですっ飛んでいた。

 茫然自失の彼は,高速運行中「停止」命令を出してしまったおかげで,ハイウェイ・システムにより,空中に車ごと弾き飛ばされ,二重三重の安全機構を偶然にもすり抜け,すり抜けした挙句,“確率神殿”にまでたどり着いたのであります。


 作者のアドリアン・ロゴズは,ルーマニアSFの始祖というべき方らしい。この作品は,1972年の欧州SF大会での受賞作であるようだ。

 それはともかく,“確率神殿”とは,途方もない記憶装置と複雑極まる回路を備えた三体のロボットたちが祭られている祭壇のこと。

 打ち寄せられたホーマーをロボットたちは舌なめずりせんばかりに迎え入れ,全身を走査し,分析します。

 ここへ来たことによって,きみはこの惑星上で最高に貴重なものを捧げてくれた。つまり,まるで起こりそうもない確率の実現だ。

 いやいや,胡散臭げな“神様”たちですなあ。

 でも,価値観を「確率」に置いているところなど,客観的で公平じゃあありませんか。

 ホーマーのバーバラへの思いなど,彼らにとっちゃ,全く関心の埒外にあります。ホーマーの生きてきた価値は,この事故による稀な確率だけ。

 ホーマーの走査により導かれた,バーバラとの美しい記憶がよみがえるシーンが,実に無機質(ロボットだから当たり前)で冷淡な神々の言動と噛み合っていない不思議な面白さがあります。

 突き放したようなユーモアが印象に残ります。

 ハヤカワ文庫SF「異邦からの眺め」に収録。