百万ドルの一発というのは何でしょうか?
大腿筋をきれいに貫通する一発。
名誉負傷賞をもらって,後方勤務,徴兵期間を満たせば,故郷に帰ることのできる切符のようなもの。
しかも,跡形も無く治ってしまうときている。
そう語るのは,ボリビアに派遣された部隊にいるビリーという兵卒。
語り手は,良心的兵役拒否者で,フランクとともに衛生兵の仕事をしています。
ビリーは,戦闘で,見事に“百万ドルの一発”を食らいます。
満面の笑みを浮かべ後方へ送られた彼は,何と、たった3週間!で部隊に復帰することになります。
画期的な治療技術が開発されたようなのです。
ビリーは,復隊後も,敵のナパーム弾,短針銃…と,何度も手ひどい負傷を受けるが,そのつど,復帰してきます。
体の一部を人工物に置き換えられてさえいるのです。
「何度おれを殺させれば気がすむんだ?」
兵士を消耗品のように使うというのは,比喩的に使う表現ですが,この物語では,まさに言葉通り,再生して使用するまでになっています。
志願兵が減少し,戦争に反対する世論も湧き上がる中,兵隊を何度も何度も再生することができれば,戦死者は出ないわ,補充に頭を悩ます必要は無いわ,即戦力として使えるわ,軍にとっては,願ったりかなったりということです。
だが,再生させられる側にとっては,たまったものではありません。
再生はごめんだ,助けてくれ,本当の“The Million-Dollar Wound”をくれと。
ディーン・ホイットロックは,1989年から数年の間,何作かが,「SFマガジン」に掲載されたが,それ以後,とんと音沙汰が消えた作家です。
しかし,この作品は,非常に印象に残っています。
情景描写については,ルーシャス・シェパードのような戦争の息詰まるようなリアルさと狂気を描いているわけではないのですが,設定の面白さにより、戦争の非情さを切り口鋭くあらわした引き締まった好編であると思います。
SFマガジン掲載のみで埋もれている作品ですが、アンソロジーで復活する価値のある作品ではないでしょうか。
ちなみに,シェクリイに,「たとえ赤い人殺しが」(「SFマガジン」1977年6月号掲載)という,再生される兵士の怒りという,ほとんど同種の作品があります。ウィリアム・テンの「死者の国へ」は、再生兵士による部隊の長となった男のお話です。
これらも,すぐれものの作品です。
「SFマガジン」1989年9月号掲載。
