作者は,「悪魔の辞典」のアンブローズ・ビアス。
数ある短編の中でも,際立って異様な作品が,この「犬油」です。
主人公の父親は,大釜で犬を煮て,その油を採取することを生業としています。
こんな不気味な油,何に使うのかいなと思いますが,どうも,医者が,違うものと偽って使用するらしい。
また、母親は,歓迎されない嬰児を処理するという,これまた,父親の上手をいく仕事をしています。
主人公は,母親の仕事の手伝いをやらされているのですが,ある日,警官から逃れて,やむなく,嬰児を,大釜に放り込みます。
翌日,父親が,満足そうに,両手を揉みながらいうには,
「今日は,いままでになく良質の油がとれた。どうして,こんな立派なものがとれたのか。」
主人公に真相を聞いて、嘆き悲しむような両親ではありません。
なぜ,今まで,二人の事業を連携させることに思い及ばなかったかを,嘆く始末。
しまいに,人をかどわかしてまで,大釜に投げ込む所業に至ります。
こんな鬼畜の行いをしているうちに,互いに憎悪の芽生えていた両親は…
モラルも何も無い,すごい作品です。
1890年の作品というから驚きですね。
へたに異常さをあおろうということもなく,実に淡々と語られるところが,また,効果があるんですね。
主人公は,「これほどの陰惨な商業的災難を引き起こした自分の不注意な行為を悔やむ気持でいっぱいになって,ぼくはこの回顧録を書いている。」そうだが,「商業的災難」であるとか,「不注意」であるとか,基本的に,人倫にもとることに対して,反省していないような。
「さすが,ビアス!」というのは,「この作品をもって俺を語るな!」と言われそうだが,正直言って,一番,印象に残った作品でありました。
岩波文庫「ビアス短篇集」収録
