クリスチャン・ハラルドソンは天性のリズムと音感に恵まれ,その創造性は稀有のものであった。
彼は,「創る人」に選別され,野生の美しい土地と自分のつくる音楽だけに囲まれて30年を過ごしてきたのである。
ある日,彼は,「聴く人」から,バッハのレコーダーを受け取ってしまう。
自らの霊感にのみ忠実に新しいものを創る者としての資格を失ったクリスチャンセンは,「監視人」から,二度と音楽を創ることを禁じられ,選ばれた場所を去ることとなる。
彼の新しい仕事は,ドーナツの配送トラックの運転手だった。
ある酒場に入った彼は,店の奥のピアノを見つける。
調律のできていない古ぼけたピアノから奏でられる妙なる音楽。
それは,やがて,「監視人」の知るところとなる。再び,法を破った彼は,全指を切断されるのである。
次に,彼は,道路建設隊の交通整理員になった。
建設隊は,働きながら歌を歌う。
また同じことが起こる。
彼の創り出した歌は,人々から人々へ愛され,伝わっていったのである。彼は,声を失い,次の仕事は「監視人」となったのである。
長き時にわたる,「監視人」としての任務を終えたクリスチャンは,ある町で若者たちが,聞き覚えのある歌を歌っているのを耳にする。
それは,彼がシュガーと呼ばれていた頃,建設隊にいるときに創った歌だったのである。
「創る人」としての一生を送るはずであったクリスチャン。音楽を忘れることなどできはしない。
しかし,各人の適性に応じた一番の幸せを提供するこの世界では,「創る人」でない人間が,これほど人の心を揺さぶるような音楽を創りだすことは許されない。
分に応じた世界,とても住み心地のよいこの世界の秩序を乱すことをしてはならないのだ。
「創る人」でも「聴く人」でもなくなったクリスチャンは,この世に居場所はなくなった。ただ一つの例外は,皮肉にも「監視人」の役目だったのだ。
孤独で哀しい物語である。しかし,彼の歌は,時をこえて歌い継がれている。
これは,彼にとって慰めとなったのであろうか。
ハヤカワSF文庫「無伴奏ソナタ」の表題作。
この短編集も絶版ながら評判の高いもの。最近の復刊の流れに乗ってくれないかなと期待しておりますが。
2014年に復刊しました。「無伴奏ソナタ」は、冬川亘氏から金子司氏に代わっていますね。

