母~フィリップ・ホセ・ファーマー①

 惑星ボードレールに,緊急着陸した宇宙船。
 衝突のショックで生き残ったのは,ポーラ・フェッツ博士と息子のエディの二人だけであった。

 エディは,植民惑星におけるオペラ調査という怪しげな名目で参加したテナー歌手で,いわゆるマザコンの青年である。

 万能無線機に,周波を発するものの反応があり,母子はその探査に出かける。
 発信源の小高い山の上には,何か岩のような物体が存在していた。
 と,そこから触手が伸び,エディを捕らえ,体内へと取り込んでしまったのだ。

 エディは喰われるのかと思ったが,どうもそうではないらしい。
 無線機による意思疎通を行うと,この生物の生態がわかってくる。
 地表に定着し,土壌から養分を吸収する植物体に近い。繁殖は,生殖帯への外傷による刺激による。そばを通る動体を触手で捕まえ,体内の生殖帯を傷つけさせる仕組みだ。
 つまり,動くものであれば,それが雄の役割を果たし,生殖の目的を達した後は,消化吸収してしまうというシンプルなシステムだったのだ。

 エディは,たまたま,生殖活動を行わなかったため,体内にとどまり,その生物…<母>…の子供たちと一緒に暮らすこととなる。

 一方,エディの母は,他の<母>に捕らえられてしまう。

 意思疎通ができる奇妙な「動体」を手に入れた<母>たちは,エディ母子を体外に出して,二人の様子を興味津々でうかがうのだが,動体が母であるという事実を受け入れられずにパニックに陥った<母>は,エディの母を消化嚢に放り込んでしまうのである。

 安全で,あたたかく,やわらかく,好きな食事を好きなときにもらい,まどろむような時間を過ごす。
 周期的に,生殖の手助けをし,子供たちとともに暮らし,彼らが成長したときは,いっしょに外へ排出されないように注意し,体内にとどまり続ける。
 
 いわゆるNEAT的なエディにとっては,実の母親を失うかわりに,新たに理想の母親に出会ったとでもいうべきか。
 
 「母」は,「恋人たち」の好評のあとを受け,1953年に発表されたフィリップ・ホセ・ファーマーの作品。

 心理学の知識がないため,偉そうなことは書けませんが,「胎内回帰願望」なるものを実体験させてくれるような作品です。

 <母>の庇護のもとで,ぬくぬくと,何の心配もなく生きる。
 退化であるのかもしれないが,理想郷でもある。
 マザコンと一言で片付けられそうだが,母という存在に対しては,誰しも,このような潜在的願望があるのではないか。

 フィリップ・ホセ・ファーマーは,非常に旺盛な創造力と,奔放な想像力をもって,ほんとに多様な作品を作り出しています。

<母>は,創元SF文庫「奇妙な関係」に収録。