ご存知,Qfwfq老人のとんでもない法螺話を集めた「レ・コスミコミケ」のなかでも,最も好きな作品です。
かつて,月は地球のたいへん近くにありました。
一番,近づくとき,真下まで舟を漕いでいって,脚立をたててのぼるだけで,月にあがることができたのです。
いや,荒唐無稽なのですが,実に壮大で魅力的な設定ですね。
地球と月の引力が釣り合い,軽い甲殻類や珊瑚,海藻が浮遊する,銀色の海面の上を遊泳するXlthlx嬢ちゃん。
月から地球へと戻る際に,逆立ちになって,勢いをつけて飛び上がる―地球側から見れば,月をバレーボールと見立てたトスのように滑らかに動くQfwfq老人の従弟。
幻想的な光景です。結構,ダイナミックなところがまたよろしい。
そして,ユーモラスなんですね。
物語は,こんな魅力的な設定のもとでの,若きQfwfq老人,その従弟,そして船長夫人の三角関係?,悲恋を描きます。
若きQfwfq老人が密かに恋する船長夫人,一方,船長夫人は,従弟を想っているらしい。
それを知ってか知らずか,従弟は,全く無頓着。
彼は,月と友達。月と無邪気に戯れているのが何より楽しいといった風情。
罪作りです。
ある日から,月は,次第に,地球から遠ざかり始めます。
従弟へのかなわぬ想いを,船長夫人は,どうしたのでしょうか。
御伽噺のような話です。
8歳の息子に,ちょっと噛み砕いて話をしてやると,大変喜びましたね。
脚立にあがって,月に届く…子供心をくすぐったようです。
久しぶりに楽しい話をしてくれたとの感想でした。
もちろん,息子には,この恋の話はわからないでしょうが。
わたしも,恋愛の機微など疎い人間ではありますが,かなわぬ恋ほど何とやらといいます。
船長夫人の行動は,面当てのような気もしますし,ある種の執念らしき怖さも感じるのですが,それはそれで,哀しき、きれいなエンディングとなっています。
ハヤカワepi文庫「レ・コスミコミケ」に収録。
ほかにもいい作品が揃っていますが,特に「水に生きる叔父」が噴飯もので最高です。
永らく,入手困難でしたが,2004年に復刊されました。
同じく,Qfwfq老人の活躍する「柔かい月」も河出文庫から出ています。

