月の蛾~ジャック・ヴァンス①

 惑星シレーヌの住民は,誰も決して素顔を見せず,いかなるときも仮面を着用し,極めて複雑な音楽的言語をつかいます。

 また,きわめて個人主義的であり,かつ自尊心が強く,誇りを傷つけるものには,決闘もいといません。

 なかなか,対応の難しそうなこの惑星にやってたきたのは,領事代理のシッセル。
 赴任早々,シッセルは,凶悪な暗殺者アングマークを逮捕・監禁せよとの指令を受けますが,この地の風土・習慣にとまどい,失態を繰り返します。

 それを尻目に,アングマークは,シッセルを亡き者とし,シッセルになりすまそうとするのですが…。


 「月の蛾」とは,シッセルがつけている仮面の名前です。

 この惑星では,仮面が,地位・威信・性格等を表象しているのだが,「月の蛾」は,ややしょぼいものであるらしいです。

 何も知らぬ新参者には,相応な仮面なのでしょう。
 もっとも,勘違いな仮面をかぶると,殺されてしまうこともあるというから物騒なことです。

 筋立ては,軽いミステリーで,シッセルのしでかした失態を逆手にとっての一発逆転劇はなかなかに痛快です。

 それよりも,背景となるこの惑星の風習が,メインとなる話でしょう。
 シレーヌは,非常に豊かな惑星であり,その余裕が,何事にも「凝り性」の文化を生み出したようです。

 仮面を被り,複雑精妙に楽器と旋律を操り,婉曲表現を用いる,そのような,誇り高き、ややこしげな人々とのすれ違いの様が面白いですね。
 作品の出来・不出来は,設定次第ということでしょう。

 この短編は,ジャク・ヴァンスの代表作の一つと言われます。
 私は,これまで,ジャック・ヴァンスの作品をほとんど読んでいなかったのだが,この作品は気に入りました。

 異様な文化を有する異世界を描く名手ということが,この作品からもうかがえます。

 ほかにも,「最後の城」というヒューゴー・ネビュラ両賞受賞作や,「竜を駆る種族」という,名前だけでもエキゾチックなイメージのある高名な作品もまだ未読なので,なんとか入手したいと思っています。

 先日,BOOK OFFで,たまたま「魔王子」シリーズの前半4巻分を購入しましたが,これまた傑作とのことで,読む機会を楽しみにしております。

 ただ,長編は購入しても,たまる一方なんですけどね。

 「月の蛾」は,河出文庫「20世紀SF③」に収録。