ある町にやってきた時計師のベル。
彼は,どんな時計でも修理ができます。
また,極めて精巧なからくり時計を次々と作り出し,町の人々を魅了するようになりました。
しかし,町のワルどもが,因縁をつけにやってきます。
彼らは,愚にもつかない挑発のすえに,時計を落として壊してしまいます。
その日から,ふっつりと消息を絶ったワルども。
町の人々も,なんとなく,時計師の店に寄り付かなくなってしまいます。
そして,ある晩遅く,ワルどもの仲間連中が,店に押しかけてくるのですが…。
物語自体は,どちらかといえば,単純な話ですが,店の雰囲気が実にいいですね。
美しく見事な作りのからくり時計が並ぶショー・ケース。
磨かれ黒光りのするような木の床と壁。
アンティークな時計屋さんには,幻想的イメージがよく似合います。
―そのとき六時きっかりになり,とたんに彼は種々雑多な音の洪水に包まれた。クリスタルをはじいているようなかぼそいチャイム音,深い鐘の音に,やわらかく反響する銅鑼の音,そしてそれに張りあう,さえずり声,口笛のような音,鳥の声がつかのまの幻想曲を奏でた。たくさんの小さな人形が前に出てきて,それぞれのやり方で時を告げた。―
いっせいに,時を告げる時計。動き出す人形たち。
そして,再び静寂に戻り,時を刻む単調な音が続く。
やや,不気味なものも感じませんか。
ちょっと古いですが,ピンク・フロイドの「タイム」という曲の中途で,いっせいに時計が鳴る,背中の毛がそそけだつあの部分を思い出しました。
この時計師は,時間の魔術師でもあったのです。
「SFマガジン」1992年11月号掲載。
1992年の同誌読者賞をとりましたね。
