教育用書籍の渡りに関する報告書~ジョン・スラディック②

 この妙なタイトルの短編は,文字通り,世界中の本という本が,ブラジルのジャングルの中にある特定の地点を目指して,羽ばたきながら飛んでいくというお話であります。

 この超自然的な現象には,誰も答えを見つけることが出来ません。

 これは単なる「集団幻覚」に過ぎないと言い張る心理学者,太陽黒点が活発化したために生じた空電現象だとする気象学者…。

 私は,トーン氏の見解に興味を覚えました。

 「これらの教育用書籍が,ですな。何週間もの間,誰にも読まれずにほっぽり出されている。あなたならどんな感じがしますかな?自殺するかもわかりませんな。彼らがやっていることは,ちょうど,それですな。レミングのように自分で自分の命を絶っているのですよ。」

 理由はともかくも,特に大きな一団の本の群れが雲のごとくにやってきて,どんどん新たな本を吸収していきます。

 それを眺める人間たちも,なんか浮き浮きした興奮した気持ちになって,小脇に抱えた本を差し上げて,飛び立ちやすいようにしている人さえいます。

 
 スラディックの短編となると,一癖も二癖もあるはずだという先入観にとらわれますが,なんでしょう,この短編は,バカバカしいながらも,不思議な開放感に浸れる作品でなかなか気に入っております。

 本が飛ぶという話は,よく出てきますね。
 芥川龍之介の短編「魔術」で,ミスラ君が本棚の本をひらひらと宙に舞い立たせるシーンもありました。

 スラディックといえば,最近,「グラックの卵」でも一編紹介されていますし,いつになるかはわかりませんが,「未来の文学」Ⅲ期でも短編集が出るということです。

 この素敵な流れから行くと,ライバーやマイクル・ビショップあたりが,動き出すのではないかと思っておりますが。

⇒2007年2月5日の記事ですが、国書刊行会の「未来の文学」Ⅲ期に、スラディックの「ミュラーフォッカー効果という"長編"が予定されていましたが、お蔵入りになったようですね。代わりに、河出書房の「奇想コレクション」が、スラディックもライバーもカバーしてくれましたね。