ある春の日,船は轟音をあげて不時着し,6人のクルーはうつぶせに投げ出されました。
「着陸したぞ!
ここは地球だ。帰ってきたんだ―生きたまま!」
「歩きはじめよう」
「町にむかって」
「帰ってきた英雄たち。町の名士ですよ。パレード。軍楽隊。美女が乗った山車。」
一行が町に入ると,男も女も蜘蛛の子を散らすように逃げ去ります。
たちまち,通りには人気がなくなりました。
「なんてこった!…いったい―」
通りの先で2台の黒塗りのセダンが角をまわり,こちらへ向かってきます。
彼らは,FBI。
燃え上がるナパームが,6人を焼き尽くします。
「これで―22回目ですか?」
「21回目だ。二ヶ月ごとに……同じ名前,同じ男たち。慣れるとはいわんよ。だが,少なくとも驚かなくなる。」
7月下旬の暑い夏の日でした。
船は轟音をあげて着陸しました。
「帰ってきた!われわれは帰ってきたんだ!」
いかにも,ディックらしい,乾いたユーモアと,いわくいいがたい虚脱感を感じさせる作品です。
非常に素直でストレートなストーリーなのですが、読者を不安に陥らせる,短刀を忍ばせているのは,いつものとおり。
誰が、何の目的で,繰り返し繰り返し,同じ面子を送り込んでくるのでしょう。
自らをクルーと信じ込んでいる連中は,毎回,途方にくれたまま,始末されてしまいます。
この,とてつもない無力感と徒労感!
「時間飛行士へのささやかな贈物」も、設定は違えど、飛行士たちは、何度も地球へと帰還してきます。このヴァリエーションは、ディックお気に入りのものかもしれませんね。
クルーの一人が,FBIに向かって発した言葉。
「おれたちがだれか知らないんだ。アカだと思ってるんだよ」
本当にかわいそうになってきます。
創元SF文庫「影が行く」収録。
ところで,解説で,編・訳者の中村 融氏が,新訳についての自信を示しています。
「旧訳に比べればイメージ解像度の点で,白黒TVとカラーTVくらいの差はあるはず。旧訳に愛着のある人も,嘘だと思ったら本書を買って帰って,じっくり検討して欲しい。少なくとも,数時間の娯楽は保証する」
という具合に,豪語しておられるが,この作品については,確かにその通りです。
最近,復刊した,ちくま文庫のディック短編集2「ウォー・ゲーム」(仁賀克雄 訳)に収録されているので,興味のある方はどうぞ。
ちなみに,タイトルは,「探検隊はおれたちだ」!……。Explorers We
これだけでも,ちょっと,センスがずれてるような気がしますね。

