シルヴァーバーグのこの作品は,1970年度ネビュラ賞短編部門受賞の切れ味鋭い「異星人乗っ取りもの」であります。
乗っ取りといっても,軍事力で征服を図ろうというのではなく,人間の脳みそをランダムに渡り歩くというものです。
何の前触れもなく,周期もない…突然,異星人が宿主となり,肉体を支配する。数日たつと,突然消え去る。残された人間には,その期間の記憶はまったくありません。
異星人のことですから,憑依に対して,時も場所も選ぶなんてことはしません。
ドライバーたちは,しゃちこばってハンドルをにぎっている。いつ,近接車のドライバーが宿主になるかもしれないし,憑きものが人間の体におちつくまでには,いつも一瞬間の筋肉調整のまごつきがある。そのために,たくさんの人命が,街路や高速道路で失われた。だが,憑きものは一度もいのちを失ったことがない。
世界は一変しましたが,それでも人間は適応しています。
憑依を所与のものとして受け入れ,その間の事象は,全く関知しないこととして,罪にも問われないし,誰もそれに触れないことが暗黙の了解となっているのです。
主人公は,タブーをやぶり,憑依期間中に,肉体関係をもったと思われる女性に真剣な交際を望みます。
異星人の思いのままに操られ,自らの意思を踏みにじられていることへの反逆も込めた行為です。
でもね,主人公がこの憑依期間中の記憶をわずかにとどめているというのもおかしいじゃありませんか。案の定,ろくでもない結末になるわけですが,これが異星人の“隠微な娯楽”であるかも…という後味の悪い思いが残ります。
異星人の正体も,目的も何もかもわからないところがよろしい。単純明快なお話ではありますが,これだけすっきりと描けるのはやはり相当な手腕であると思います。
シルヴァーバーグさんの作品を読むと,抑えた知性というものを感じます。
ところで,この作品,フレデリック・ポールの「われら被購入者」とよく似ていますね。
