「6月15日の朝,ガイ・バークハートは悲鳴をあげて夢から醒めた。」
すさまじい振動,焼けつくような熱波…これほど現実感のある夢は,今まで見たことがありませんでした。夢?
タイラートンの街はいつもと変わりません。が,何かが違います。
バークハートは,偶然に,家の地下室が,金属箱に上張りした模造の仕上げで偽装されていることを発見し,さらに,昨日が6月15日であったのに,今日も6月15日であり,人々も何の違和感もなく,新しい6月15日を迎えているということに気づきます。
彼は,この事実に気がついたもう一人の男とともに,街の地下に伸びる長いトンネルを探り出し,いったい,この街で,どんな陰謀がたくらまれているかを暴こうとするのですが…。
短編でありながら,実に,内容豊富。
エスカレートする広告宣伝にあふれかえった社会,不気味な仮想現実世界を,うまくマッチングさせ,サスペンスフルで意表をつく展開にもっていきます。
がなりたてる拡声器,のべつまくなく連呼される商品名,いわゆる恋人商法?…そして,究極の市場調査。「宇宙商人」の作者の得意とする分野なのでしょう。
商業主義優先の非人間的な支配の姿を,戯画的ではあるが,活き活きと描いており,さほどの古さを感じません。
爆発事故により消し飛んだ街をもとにした仮想世界という設定には,非常に鮮烈な印象があります。
バークハートが,この街を実験場とするドーキンを告発しようと,街を出ようとして,“真実”を知るところは痛切です。
まるで、培養皿で,試薬を添加される,黴菌のような存在。
選挙行動に影響を与えるまでの力をドーキンが手に入れようとするところで物語は終わります。洒落たしめくくりです。
仮想世界において美しく完璧な女性でいられることを望む老女など,色々なアイデアもそこかしこにまぶされ,飽きさせません。
ちょっと、ディックを思わせるような,SF短編屈指の名作です。
河出文庫「20世紀SF② 1950年代」に収録。
この巻は,シリーズの中でも,特に傑作揃い。
というより,私も,昔SFの方が好きだということか。
